【中国】中古品の再生行為と商標権侵害の成否に関する検討
1.はじめに
商標権の消尽原則により、商標権者の許諾を得て適法に市場へ投入された商品が販売された後は、当該商品の通常使用及び流通を確保するため、中古品[1]を含め、原則として商標権侵害を構成しないとされている。また、近年、循環経済の発展促進や資源利用効率の向上を目的として、中国政府も中古品の再利用を積極的に推進・奨励している。
しかしながら、中古品が常に商標権の消尽原則の適用を受けるわけではない。再生された中古品が関連公衆の誤認を招き、商標の出所表示機能、品質保証機能または宣伝広告機能を害する場合には、同原則の適用は否定され、商標権侵害が成立するものとされる。本稿では、中国の司法実務を踏まえ、中古品がいかなる場合に誤認を生じ商標権侵害を構成し得るかを分析し、商標権者の参考に供する。
2.中古品が商標権侵害を構成するか否かの主な考慮要素
中国の現行法上、中古品がいかなる場合に公衆の誤認を招き、商標機能を損なうかについて明確な定めがない。実務上、裁判所は主に次の二点を総合的に考慮して判断している。
(1)中古品の再生行為により商品に実質的変更が生じたか否か。
(2)中古品の再生事実が合理的に情報開示されているか否か。
(1)中古品の再生行為により商品に実質的変更が生じたか否か
再生行為により商品の機能・性能または主要構成部に実質的変更が生じた場合、裁判所は一般に商標権侵害の成立を認定する傾向にある。
たとえば、杜高社とドミノ社との商標権侵害紛争再審事件[2]において、被告である杜高社が原告であるドミノ社のE50型インクジェットプリンタのインク供給システムを交換した上で販売した行為について、最高人民法院は次のように判示した
商品が通常の商業経路で販売された後に再販する行為は商標権侵害を構成しない。しかし、転売の過程で商品に実質的変更が加えられ、商品と出所との関係が変化し、且つ合理的な告知を怠った場合、消費者に混同を生じさせ、商標権者の利益を害することから、商標権侵害に該当する。
本件では、杜高社がドミノ社のE50型インクジェットプリンタの重要構成部分であるインク供給システムを改装した行為は、商品の本来の品質を実質的に変更した。改装後の商品に引き続き従来の商標を付しつつ、改装の事実も明確に告知しなかったことは、消費者に出所の混同を生じさせるおそれが高く、商標権侵害を構成するとされた。
このほか、被告人である袁某・曹某の登録商標冒用罪事件[3]において、成都市中級人民法院は、被告人が中古携帯電話の背面カバーやディスプレイ等を交換・組立した行為は、携帯電話の機能・性能に影響を及ぼすものであり、商品の性能等において「実質的変更」が生じたと判断した。その結果、再生後の携帯電話は新たな「同一商品」として出現し、VIVOなど商標の品質保証機能が破壊されたと認定された。
また、(2021)滬73民終733号、(2019)蘇民終1754号などの事件においても、裁判所はいずれも、修理・改装・変更を経た中古品が、商標権者が市場に投入した元の商品と比べ、品質・外観等において実質的に変更が生じた場合、商品と出所との関係が変化し、引き続き元の商標を付することは消費者に混同を生じさせ、出所表示機能、品質保証機能または宣伝広告機能を損なうとして、商標権侵害の成立を認定した。
総合的にみて、現在の実務傾向は依然として「実質的変更の有無」を主要な判断基準としており、とりわけ再生行為により商品と元の商標との対応関係が断絶された場合、商標権侵害を認定する傾向にある。
(2)中古品の再生事実が合理的に情報開示されているか否か
中古品が品質または外観において元の商品と異なるにもかかわらず、販売者が取引相手方または消費者に対して再生の事実を合理的に開示しなかった場合、公衆が商標権者の商品品質を劣悪であると誤認し、商標の信用や品質保証機能を損なうおそれがある。このように再生事実が合理的に開示されていない場合には、一般に商標権侵害が認定される。
たとえば、被告人である張某、侯某、戴某の登録商標冒用罪事件[4]において、広東省中山市中級人民法院は、「商標法において、通常の修理や再生自体は禁止されないが、修理者または再生者は当該事実を明示する義務を負う。明示を怠り、中古品が新製品と誤認される場合は、商標権侵害行為に該当する」と判示した。本件では、被告人が再生したPanasonic製ファクシミリを販売した際に、修理品または中古品である旨の表示を一切行わなかったため、商標権侵害が成立すると認定された。
情報開示をどの程度まで行えば「合理的」と言えるかについては、各地の裁判所が情報開示の方法等を踏まえて、ケースバイケースで判断している。
たとえば、シーメンス社と厦門興鋭達社との商標権侵害紛争事件[5]では、福建省厦門市中級人民法院は、被告の厦門興鋭達社が購入者との契約及びチャット記録において、当該商品(PLC)を「非新品(中古品)」と明示し、かつ価格差も顕著であったことから、情報開示義務を履行したと認めた。
他方、青島ビール社と聖洲ビール社との商標権侵害紛争事件[6]では、被告が原告の商標を付した旧ビール瓶の背面に「本容器の文字は本製品とは無関係」と表示していたが、表示位置が目立たず、文字サイズも小さかったため、通常の注意義務を尽くす消費者であっても認識困難であるとして、山東省高級人民法院は被告が情報開示義務を果たしていないと判断した。
3.中古品に第三者ブランド・包装を併用する場合の商標権侵害認定への影響
実務上、中古品の取扱業者は、商標権侵害リスクを軽減するために、中古品に元の商標を残したまま、第三者ブランドや包装を貼付・併用することも少なくない。
このような場合、裁判所は第三者ブランドや包装の使用態様、両ブランドの知名度等を総合的に考慮し、消費者の混同の可能性ならびに当事者の主観的意図を踏まえて、侵害の成否を判断する。
被告人である葉某の登録商標冒用罪事件[7]では、「京惠」標識を付した再生「惠普」(HPの中国語ブランド)トナーカートリッジが商標権侵害品に該当するか否かについて、北京市海淀区人民法院は次の通り判示した。「現場で押収された多数の改造済みのトナーカートリッジにおいて、「惠普」標識が容易に識別可能であり、付された「京惠」標識は粗雑で単なる上貼りにすぎない。……また、現場からは「惠普」標識の付された気泡袋や包装箱に再封入されたリサイクルトナーも押収されており、これらの製品を用いて被告らが「惠普」ブランド商品を冒用して販売する故意があったと認められる。被告らが「京惠」標識をもって「惠普」標識を単に覆い隠した行為は、偽造・詐欺販売を隠蔽する一手段にすぎず、他人の登録商標を冒用した行為の法的評価を左右するものではない。」
他方、大理ビール社と普洱ビール社との商標権侵害紛争事件[8]において、最高人民法院は、旧ビール瓶上に使用された他の商標が元の商標より顕著で、かつ高い知名度を有すし消費者の混同を生じるおそれが小さいこと、さらに被告に悪意が認められないことを理由に、他の商標を使用しつつ一部原商標を残存させた行為は侵害を構成しないと判断した。
4.結語
以上より、中古品が商標権侵害を構成するか否かは、「実質的変更の有無」と「合理的情報開示の有無」という二つの要素を踏まえて判断される。中古品の再生行為が商品の機能・性能・主要構成部に実質的変更が加えられた場合、または再生の事実が合理的に公衆に開示されなかった場合には、通常商標権侵害が成立すると解される。他方、商品の修理が必要最低限にとどまり、性能に実質的変更がなく、販売者が「中古品」、「再生品」等の情報を合理的に開示している場合には、商標権の消尽原則が適用され、商標権侵害は成立しないと考える。
担当:IPF中国専利代理事務所
弁護士 周 婷
弁護士 卞 優嘉



