コラム

SNS等インターネット上の誘導型詐欺広告を利用した模倣品の問題

I.誘導型詐欺広告の概念
 近年、SNS 等インターネット上に表示される広告において、知的財産権に基づく権利を有する者から許諾を受けた者を装い、あたかも真正品を販売しているかのように告知し、利用者を個別の取引に誘導するような広告(以下「誘導型詐欺広告」という。)が急増している。そして、誘導型詐欺広告の誘導先では、模倣品の販売だけでなく、無関係な商品やノーブランド品の販売、さらにはクレジットカード番号やアカウントなどの情報を盗むフィッシング詐欺など、その手口は多岐にわたる。
 このような状況を受けて、その被害状況の把握と対策、問題点等の整理を目的とした「SNS等インターネット上の誘導型詐欺広告を利用した模倣品流通に関する調査報告書」(2025年3月)及びそのサマリー(以下「本報告書」という。)が公表された[2] 。同調査は、特許庁/日本貿易振興機構(ジェトロ/JETRO)の委託によりIP FORWARDグループが調査・執筆に協力したものである。その詳細は、当該報告書とサマリーをご覧いただければと思うが、報告書公表後も動きがあったので、その状況もあわせて概要をご紹介する。

II.誘導型詐欺広告の問題点
 誘導型詐欺広告における被害状況やヒアリング調査から集約された主要な問題点としては以下が挙げられる。

1.被害が急拡大しやすい
 悪質なケースでは、1日に数百件が掲載されるなど、被害が急速に拡大する傾向にある。特に、生成AIや広告・翻訳ツールの活用により、広告の作成・出稿が容易になり、被害増加に拍車をかけている。現在は被害が少ない企業でも、突如標的となる可能性がある。

2.削除方法が不明瞭・煩雑
 広告が複数アカウントにより転載・拡散されるため、アカウントごとに個別に削除要請を行う必要があるなど、対応に多大な手間と時間を要する。さらに、プラットフォームごとに手続が統一されておらず、担当者の判断によって対応が異なることもあるため、権利者にて画一的な対応ができず、負担が大きい。

3.権利者において被害の実態の把握が困難
 権利者では把握できていないが、利用者は目撃している誘導型詐欺広告が多く存在する可能性があり、権利者において被害の実態の全体像を把握できない。

4.広告主の特定と被害実態の把握が困難
 広告の検索自体ができない場合、そもそも問題の広告を特定することができず、警告状の送付や摘発が難しい。広告代理店が複数介在し、広告主の情報が秘匿されたり、架空の連絡先が使用されたりするケースも多い。そのため、発信者情報開示請求を行っても、真の広告主にたどり着けない状況が続いている。さらに、誘導先のサイトが詐欺サイトである場合、テスト購入による調査もセキュリティ上のリスクが高く、容易ではない。

5.プラットフォーム事業者の対応
 SNS等のサービスを提供するプラットフォーム事業者については、一部で対応が円滑に行われているものの、レスポンスの遅さや削除基準の不明確さ、対応を待つ間に広告が消え、同種の広告が再出現するなど、権利者の不満が寄せられている。

III.権利者の取り得る対策
 現時点において、権利者が誘導型詐欺広告に対して取り得る主たる措置は以下のとおりである。

1.削除要請(Notice and Takedown)
 誘導型詐欺広告を発見した際に、実務上よく取られる初動対応の一つが「削除要請」である。これは、広告が掲載されているプラットフォーム事業者に対し、削除要請フォームやメール通知などを通じて、任意で当該コンテンツの削除を求める手段である。
 例えば、Metaの「ブランドの権利保護」ツールや広告を検索できる「広告ライブラリ」ツールの活用が挙げられる。手順の詳細などは本報告書に掲載されているので、参照されたい。

2.その他の権利行使方法
 権利者は誘導型詐欺広告に対し、上述したプラットフォーム事業者への削除要請に加えて、以下の対策を検討することも可能である。

対策方法

内容
調査・発信者情報開示請求 広告主の特定のためにテスト購入等の調査や発信者情報開示請求を行うことが考えられる。ただし、偽情報や中間業者の存在により、真の広告主にたどり着けないケースも少なくない。
 警告状送付 警告状では、権利侵害の事実を指摘し、一定期間内の広告削除や将来の侵害行為の中止を求めるとともに、応じない場合は法的措置を取る旨を記載する。
刑事摘発・行政摘発  広告主に対し、国内外で刑事・行政摘発を行う。ただし、広告主の特定が原則として必要であり、国外業者による越境的な侵害行為には国内法の適用が難しい場合が多い。
 民事裁判 広告主に対して、知的財産権侵害を理由に差止めや損害賠償を民事訴訟で請求することが考えられる。ただし、被告が国外にいる場合は、送達や判決の執行に課題がある。
 通報対応 「悪質ECサイトホットライン」や「インターネットホットラインセンター」などの専門窓口に通報する。
 注意喚起 自社公式サイトなどで注意喚起を行う。消費者への警鐘に加え、誘導型詐欺を容認しない姿勢を侵害業者に示す効果もあり、実際に採用している企業も多い。

 

IV. 最近の動向、政府へのロビイング
 誘導型詐欺広告自体は簡単に大量に作成される一方で、権利者がこれに対抗するには煩雑な作業が多く、またその実効性が高くないという状況が続いており、危機的状況にあるとの懸念も高まっている。日本ブランドを騙る多くの誘導型詐欺広告は日本の消費者をターゲットにしており、権利者のみでなく消費者保護のためにも、早急に改善されるべきである。しかしながら、権利者のみでこれらの改善を行うことは事実上不可能であり、プラットフォーム事業者、我が国の政府機関、さらには海外の政府機関などとも協力しながら迅速に対応できる体制を構築することが急務であり、本報告書でもその旨の提言がなされた。
 この点、個人又は法人の氏名・名称、写真等を無断で利用して著名人等の個人又は有名企業等の法人になりすまし、投資セミナーや投資ビジネスへの勧誘等を図る広告いわゆる偽広告については、社会的関心も高く、政府などでも検討が進んでいたが、誘導型詐欺広告についてはまだ社会一般には注目されていない状況ともいえた。
 そこで、国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)[3](SNS詐欺広告ワーキンググループ)は、総務省で2025年5月9日に開催された第9回「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ」において、本問題についての問題提起を行った。このヒアリングでは、本報告書の紹介を弊職が対応した 。[4]
 同ワーキンググループは、SNS等を提供する大規模事業者に対して2024年に事業者ヒアリングを実施しており、そのヒアリングを今後も継続すべきかが議論されていたが、今後の方向性をまとめた「デジタル広告の流通を巡る諸課題への対応に関するモニタリング指針(案)」[5] では、デジタル広告について、商標権侵害等の模倣品問題も重要な監視事項であると位置づけられ[6] 、広告出稿時の事前審査等の項目として「被害を受けている企業・業界団体等との情報交換等」が追加される等、IIPPFからの要望も考慮された内容となった。
 加えて、総務省は、情報流通プラットフォーム対処法第20条第1項に基づき、Google、Meta、Xなど主要なSNS事業者を大規模特定電気通信役務提供者として指定した。大規模特定電気通信役務提供者は、削除基準の策定/公表、削除した際の発信者への通知といった運用状況の透明化が義務付けられることになり、この運用も期待される。
 本件では、先ず誘導型詐欺広告という喫緊の問題に対して、迅速に権利者たちが問題提起を行い、調査を行い、特許庁や総務省の協力も得て、オンラインでの監視事項に追加されたという一連の動きが行われたものであり、政府へのロビイングが一定の成果を出したといえる。
もっとも、誘導型詐欺広告の問題自体はまだ継続しており、これら動きを皮切りとして、更にプラットフォームとの対話等が進むことが期待される。

[1]株式会社ゴールドウインと株式会社ワコールホールディングスより提供。
[2]https://www.jetro.go.jp/world/reports/2025/02/3ec7351a32c47d3f.html
[3]模倣品・海賊版などの海外における知的財産権侵害問題の解決をめざす企業・団体の集まり。公式サイト:https://www.jetro.go.jp/theme/ip/iippf/ 
[4]https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_shokadai/02ryutsu02_04000543.html 
[5]https://www.soumu.go.jp/main_content/001014069.pdf 
[6]デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ中間とりまとめ(案)(2025年6月10日)4頁以下にも、デジタル広告における知的財産権の侵害の問題が取り上げられている。
https://www.soumu.go.jp/main_content/001014070.pdf

担当:IP FORWARD法律特許事務所
日本国弁護士・弁理士 鷹野亨
中国弁護士(資格保有者) 馬東新

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