【中国商標代理人が解説】新『商標法』改正の重要ポイント|5つの出願・冒認対応実務
2026 年 6 月 26 日、第 14 期全国人民代表大会常務委員会第 23 回会議において、改正後の『中華人民共和国商標法』が採決・可決されました。今回の改正は、商標法施行から 40 年余りの根本的な改正となり、新『商標法』は、 2027 年 1 月 1 日より正式に施行される予定です。
中国の現行商標法は 1983 年に施行され、複数回の一部改正を経てきました。最新の法改正は、2019年であり、長年にわたり、『商標法』は 登録商標専用権の法的保護、市場における商標使用秩序の適正化及び市場経済の発展促進といった面において、極めて重要な法的基盤としての役割を果たしてきました。今回の改正は、制度上の改正を含め、さまざまな変更点・突破点があり、1つのトピックでは取り上げきれませんが、特に商標出願・冒認対応関連の留意すべき点を取り上げ、具体的に分析・解説したいと思います。
一・新たな商標種類の創設

◆IPFコメント
動的標識(動き商標)とは、特定の動きやアニメーションを商標として登録する特別な標識であり、静的な画像や文字ではなく、動きそのものが商品の出所を示す役割を果たします。主な例としては、企業のロゴが特定の動きを伴って表示される場合や、映画やアニメーションが上映されるときに、ブランドの一部として認識される場合が該当します。
よりわかりやすく解説するため、動的商標の特徴と、一般的な静的商標、音商標との比較表を作成しました。

上記の比較表からわかるように、一般的な静的商標と比べ、動的商標は音商標と似たような構造となっています。具体的な審査基準はまだ公表されていませんが、音商標の審査基準を踏まえると、以下の審査要素が含まれるものと考えられます。
1. 動的商標は、業界分野において汎用的な動作(単なるスライド、蓋開け、回転動作)などは登録できず、必ず他社の商品出所と区別できる識別力のある動画が必要。
2.動画自体が商品の機能構造に該当するものではないこと(傘の折り畳み、スライド式携帯の開閉など)が必要。
また、動的商標は、音商標の審査基準と同じく、大規模な宣伝活動と使用を経て標識=ブランドの一対一の対応関係が求められると考えられます。そのため、出願もしくは拒絶査定不服審判の際には、かかる証拠を提出することが想定されるため、動的商標の出願を計画している事業者にとっては要注意ポイントです。
なお、一例として、現在登録されている音商標の具体例をもとに説明していきます。

TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATIONのこの音商標は、長年かつ継続的かつ広範な使用を経て、映画の冒頭にこの音楽が流されると、関連公衆は当該音楽と会社との対応関係を認識できるため、音商標として登録することができました。
なお、この音商標の流れる動画は下記です。

映画館に行った経験がある人は、この動画に惹かれることがあるはずです。その動画は、夜空に複数のサーチライトが光の筋を描き、重厚で壮大な象徴的なファンファーレが鳴り響きます。カメラがゆっくりと旋回しながら迫ると、アールデコ調の巨大な立体ロゴが姿を現し、金色の立体文字「20TH CENTURY FOX」が鮮やかに浮かび上がります。遠景には霞がかったハリウッドの街並みが広がり、曲がクライマックスに達したところでロゴ正面にフレームが固定され、20世紀フォックスの伝説的なオープニング映像が締めくくられ、本編の幕が開かれるという流れであり、映画の冒頭で現れています。
上記の動画は、約100年にわたり映画の冒頭で繰り返し使用されてきたことにより、関連公衆に「TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATIONの映画である」という強い認識を形成しています。そのため、この動画についてダウンロード可能な映像ファイル等を指定商品として動的商標を出願した場合には、十分な識別力を有すると考えられ、登録が認められるべきであると筆者は考えます。
なお、日本企業の動的商標でも典型的な例が多数ありますので、そちらも積極的に動的商標を出願し、商標権の保護を全面的に推進したほうがベストです。
二・異議申立可能期間の短縮

◆IPFコメント
まず、商標異議申立期間が 3 ヶ月から 2 ヶ月に短縮されたことにより、出願人は商標登録までの初歩査定期間が1ヶ月短縮され、悪意の異議による手続き遅延を抑制できることがその主な目的だと思われます。上記から、正当な商標出願がより早めに初歩査定プロセスを終え、登録して実際の使用に投入することができ、中国の市場をできるだけ活気化する役割があると思われます。
一方、先行権利者は冒認商標の発見及び異議申立のかかる資料・証拠の準備時間が削減されます。万が一、冒認商標の初歩査定公報を見逃してしまうと、異議申立の権利を喪失するリスクが生じます。この場合の救済措置としては無効審判のみとなり、権利保護のコストと難度がアップすることが予想されています。
日系企業にとっては、より短めに登録できることがメリットですが、特に冒認されやすい知名度の高いハウスマークやIPキャラクターの名称などに対し、冒認商標の発見期間が短くなったため逆に登録を受ける可能性が高くなる恐れもあります。前記への対応策として、しっかり商標ウォッチングを実施することが考えられます。
なお、商標ウォッチングとは、冒認出願を検知するための監視サービスです。具体的には、注意する必要があると思われる出願中・公告中の商標(文字商標)の情報を定期的に収集・確認し、公報中の商標が発見された場合には、速やかに異議申立を行えるようにするものです。異議期間の短縮に伴い、自社の知財を守るためにも、商標ウォッチングの実施をお勧めいたします。
三・悪意商標の登録防止

◆IPFコメント
現行商標法においては、すでに悪意による商標登録出願を原則的に禁止していると規定しています。新法では、その規定をより明確化したことが明らかです。
なお、現在の中国では、よく見られている悪意による登録出願はおよそ下記の4つの分類があります。
1. 商標を膨大な量で買い占める行為
個人または営業規模が5人未満の微小企業から一度に数十個から数百個の商標を出願し、実際に使用する意思のないまま、ほかの大手企業に高い対価で買い取ることを目的とする行為です。
2. 有名ブランドに便乗した模倣・先取り登録
文字を一字改変したり、音当て・字形の似た文字を使用したりして有名ブランドに便乗する行為です。また、人気 IP、配信者のニックネーム、話題のデジタル製品の名称を他の区分で先取り出願するケースも該当します。
3. 先行使用されている未登録商標の不正先行出願
実店舗を構える昔からの店の名前や、経営規模が小さなクリエイティブブランドなど、当事者が商標登録を行う前に先回りして不正出願を行い、後に権利侵害を理由に金銭を要求する行為です。
4. 時事話題に便乗・公序良俗に反する出願
社会的な事件、著名人の氏名、公共的な用語や流行語を悪意を持って商標登録しようとするものです。
新『商標法』の第19条の新設は、すなわち、使用を目的とせず、かつ通常の生産・経営上の必要を明らかに超えて商標登録を出願する前記4つの場合が発見されてしまう場合、登録を拒絶する旨を定め、客観的な認定基準を明示することで、商標の過剰な保有・転売といった混乱を根源から抑止することが期待されています。一方で、大手企業や複数のキャラクターIPを持っているコンテンツ企業にとっては、新『商標法』が実施されたあとで大量の出願を行いますと、官庁に使用の意思を疑われ、商標出願個数に関する説明や悪意的な大量出願と見なされて受理されない可能性も十分あります(実は現段階においても、大量同時出願をめぐって補正指令が下されたケースもあります)。これはむしろ、複数な商標登録を求める正当な企業にとってはデメリットもあります。
上記を総合的に考え、2027年より前に、新『商標法』の第19条の実施と伴うデメリットの可能性をできるだけ避けるため、ブランドの防衛出願やキャラクター名称の大量出願を2026年以内に講じることが想定されています。弊所では大量出願に対し、半年はまた年間商標出願放題のサービスがありますので、ぜひこの機会にご利用ください。
四・悪意商標出願者への罰金

◆IPFコメント
上記条目に挙げられる情状は主に以下の場合を指しています。
第 15 条・第 16 条第 1 項:公序良俗・国家・政党・国旗・軍事関連、欺瞞性・産地品質誤認を生じさせる商標
第 19 条:使用を目的としない過剰な量での出願または詐欺・不正手段による出願
第 21 条:他人の未登録著名商標への模倣・翻訳に該当する出願
第 22 条:代理人またはビジネス関係を有するものによる許可なし出願
第 24 条:他者の一定的な知名度と影響力を有する商標への不正先駆出願
先述の新『商標法』の第19条とは少し関連性がありますが、新『商標法』の第54条の規定は比較的斬新です。商標法が実施されて以来、商標出願行為そのものへの罰金行為が一切なく、市場で混同・誤認が引き起こした際、登録商標権への権利侵害、もしくは商標の不正使用において罰金を科すことがほとんどです。ただし、不正な商標出願は、罰金という手段で直接に出願者を処罰し、経済的な損失で不正行為を抑止するのは初めてです。
実務において、不正商標出願への処罰は、これまでの運用実績から見ると、公序良俗・国家などの公的権利への侵害行為及び産地・品質などについて誤認を生じさせる標章に対して適用されるケースが圧倒的に多数を占めていました。
今回の法改正により、代理人またはビジネス関係を有する者による無許可出願ならびに他者の一定の知名度と影響力を有する商標への不正先駆出願など、市場経営を行う他の企業の商標権権益を脅かす行為も処罰の対象範囲内となります。運用面でどの程度実効性が確保されるか要注目ですが、行政罰則を明確化することで不当な商標紛争の発生を抑制し、商標登録制度の信頼性を向上させ、国内外の事業者が安心してブランド戦略を立てビジネスを展開できる環境を整備する意義があると考えます。
五・取消された先行登録商標と他者後願商標の出願審査における関連性

◆IPFコメント
現行『商標法』第50条において、以下の規定があります。
登録商標が取消され、無効宣告を受け、または存続期間満了に伴い更新手続きが行われなかった場合、取消日、無効宣告確定日または抹消登録日より1年間、商標局は当該商標と同一または類似する商標の登録出願について登録を許可しない。
新・旧の法律条文を比較してみると、新『商標法』の第49条は、以下の原因で無効となった先行商標は、第三者後願商標の出願審査による阻害ではなくなることを明確化しました。
① 三年不使用取消審判で無効された先行商標
② 無効審判で無効された先行商標
③ 未更新によって無効された先行商標
現行『商標法』では、商標権が失効した後も、過去に当該商標を付した在庫商品・流通品が市場に一定期間残存している可能性を考慮し、直ちに第三者が同一・類似商標を登録・使用して購入者が混同するのを防ぐため、1年間の登録制限期間が設けられていました。これは旧商標商品が市場で売り切れるまでの猶予期間として機能することが期待されていたためです。
しかし、実務において、この規定が存在することにより、多くの他者後願商標の出願がこの一年を待たなければならず、登録を受けるまでの時間が大幅に遅れる場合がありました。特に、無効審判、三年不使用取消審判は、先行障害を除去する最も有効な方法ですが、一刻もはやく使用したいという後願商標の出願人にとって、現行『商標法』第50条の存在が時間とコストの増加につながるケースも少なくありませんでした。
新『商標法』第49条は、商標登録の早期実現を図るため、上記①~③の事由を1年間の登録制限から削除し、実質的に「商標出願者の自主的な抹消」のみを制限理由としています。この改正により、商標登録の早期実現が確実となり、市場の活性化及び商標使用の促進という立法目的の実現に非常に大きな意義があると考えます。
新『商標法』は、さまざまな改訂がありますが、実務面について官庁がどのように運用していくかについては、期待とともにまだ不明な部分が残されています。特に今回取り上げた5つの改正点は、中国における商標出願・冒認対応に深く関わるものであるため、これからもその運用を継続して注視していく必要があります。
以上
執筆者
戴 元(中国商標代理人 / IP FORWARDグループ)
東北大学大学院国際文化研究科修了(修士)。大手法律事務所(King & Wood Mallesons北京本社)を経てIP FORWARDへ加入。中国および周辺国における商標出願、異議申立、無効宣告、著作権登録、紛争案件対応など、知的財産権実務全般に豊富な実績を持つ。


