タイにおける食品・農産物の模倣品対策|事前予防(GI・商標)と事後対抗策の完全ガイド
1.はじめに
日本の農林水産物や食品は、タイを含む東南アジア諸国で高く評価されている一方、近年では模倣品の流通が問題となっており、ジャパンブランドの価値や輸出機会の損失が懸念されている。そこで本記事では、タイにおける日本の農林水産物や食品の保護強化と模倣品対策方法の周知を目的とし、地理的表示(GI)や商標の取得による知的財産面での防御策に加え、模倣品被害発生時の知的財産権に基づく対策及びそれ以外の対応策について解説する。詳細は、IP FORWARDが執筆協力したジェトロバンコク事務所「タイにおける食品の模倣品等対策調査報告書~事前・事後の対応策~」も参照されたい[1]。
(1)地理的表示(GI)制度の活用
タイにおいては、地理的表示(GI)は2003年に制定された地理的表示法(The Act on Protection of Geographical Indications B.E.2546)により保護されている。GIとして登録された産品には、専用のロゴマークの使用が認められている。GI登録の対象産品は、「天然物であれ、農産物であれ、販売・交換・譲渡が可能な動産を意味し、手工芸品及び工業製品を含む」と定義されている(地理的表示法第3条、第6条)。また、外国産品も登録の対象となり得る。GI登録を行うには、商務省知的財産局(The Department of Intellectual Property:DIP)に申請書を提出する必要がある。

タイのGIマーク
(2)商標法に基づく保護手段
タイにおける商標登録、特に農産品が関係すると考えられる商品は、証明商標又は団体商標として保護されている。なお、既に地理的表示(GI)として登録されている場合、商標としての登録は商標法で禁止されている(商標法第8条第12号)。
証明商標とは、商品の品質や出所などを証明する目的で、その所有者が他人の商品又はサービスに使用させる商標である。一方、団体商標とは、同じグループの会社、協会その他の団体が使用する、又は使用を意図する商標である(商標法第4条)。
商標出願に際しては、出願人又は代理人がタイ国内に連絡先を有する必要があり、非居住者である外国の出願人は現地代理人を選任する必要がある。

3.事後の対抗策
模倣品の市場流通が発見された場合には、事後対策として、模倣品の流通実態に関する調査及びその結果に基づく権利行使が考えられる。以下に、それぞれの概要を解説する。
(1)模倣品被害調査
模倣品の取締りに先立ち、模倣品被害実態調査及び権利侵害行為の証拠確保が不可欠である。一般的には、次のような模倣品調査の方法が挙げられる。また、必要に応じて専門の調査会社の協力を得ることで、調査の効率と効果をさらに高めることが可能である。

(2)知的財産権に基づく対策
模倣品調査を経て、模倣品の流通状況や販売業者・製造業者を特定できた場合には、GI又は登録商標に基づき、一般的には、①警告書の送付、②民事訴訟、③刑事摘発、④税関での差止、⑤インターネット上での削除要請、というような権利行使の手段が考えられる。各手段の違いについては、下表のとおりである。

・Shopee Brand IP Portal

・LAZADA:Alibaba International IPP Platform

・Temu IP Portal

(3)知的財産権以外の対策
上述した知的財産権法に基づく手段以外にも、タイにおいては、農林水産物やその加工品の産地に関して消費者に誤認を与える表示がある場合、消費者保護法や食品法に基づく表示規制によって対抗し得る場合がある。以下にそれぞれの規制の概要を紹介する。なお、これらの規制に基づく摘発事例は現時点では多くなく、参考となる実務上の情報も限られていることから、当該手続を進めるにあたっては、現地の弁護士や当局に相談しながら対応することが望ましい。
① 消費者保護法に基づく規制
タイの消費者保護法第47条によれば、商品の原産地、状態、品質、特性について誤認を生じさせる目的で、虚偽の表示(GIの不正使用又は誤用もこれに含まれると解釈される)を含むラベルを用いて広告又は表示を行った者には、刑事責任が科され、6か月以下の懲役、5万バーツ以下の罰金、又はその両方が科される。
② 食品法に基づく規制
タイでは、食品に関して消費者を誤認させるような表示や広告は禁止されており、不適切な品質や効能を偽った場合には、広告の停止や罰則の対象となる。また、食品の広告を行う際には事前審査が必要とされており、無許可で行うと行政処分や罰金が科される可能性がある(食品法第40条、第41条)。加えて、食品ラベルには製造者や輸入者の情報を正確に記載することが求められており、虚偽表示も処罰の対象となる(食品法第6条第10項、第51条)。
上述した表示規制や広告規制に関する違反については、警察庁消費者保護部(Consumer Protection Police Division)又は保健省苦情処理・対応センター(Complaint and Enforcement Management Center, Ministry of Public Health)に通報することが可能である。ただし、実務上、通報はタイ語で行う必要があり、法令に関わる事項であることから、現地の弁護士等に相談の上で対応を進めることを推奨する。
4.まとめ
以上のとおり、タイにおいて日本の農林水産物や食品のジャパンブランドを保護するためには、まず事前の対抗策として、現地における商標やGI登録などにより知的財産権を行使できる体制を整えておくことが重要である。また、もし模倣品が発見された場合には、模倣品被害の実態調査を通じて被害状況を把握し、実際の権利行使に際しては、費用対効果や成功率を踏まえて実践的な手段を選択することが望ましい。本記事が、タイにおける模倣品対策の一助となれば幸いである。
IP FORWARDでは、タイ・バンコクの東南アジアオフィスをはじめ、現地拠点および強固なネットワークを通じて、タイおよび東南アジア全域における知的財産権の保護・模倣品対策をサポートしております。
本記事の内容や、タイを含む東南アジアでの知的財産保護・権利行使に関してご不明な点やご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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執筆者
鷹野亨(日本国弁護士・弁理士/ IP FORWARD法律特許事務所)
長島・大野・常松法律事務所ホーチミン・オフィスに入所し、3年間ベトナム現地に駐在した経験を持つ。IP FORWARDに参画後、グローバルに知財法務を取り扱うとともに、アジア法務、エンターテインメント法務、IT法務、国際企業取引、労働、紛争解決、一般企業法務など幅広く担当している。
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馬 東新(中国弁護士・弁理士資格保有 / IP FORWARD法律特許事務所)
早稲田大学大学院在学中に、中国司法試験・弁理士試験に合格。IP FORWARDへ入社後、東南アジア地域における模倣品対策業務に従事し、模倣品調査・摘発、ライセンス交渉・紛争対応等に豊富な知見と実務経験を有する。
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