コラム

【日本】メタバース上の模倣品への対応、不正競争防止法の改正

目次

1. はじめに

2. メタバースについて

3. メタバース上でのデザイン保護

 (1) 著作権法
 (2) 意匠法
 (3) 不正競争防止法

4. 今後の課題


1.   はじめに

 

 メタバース(仮想空間)に関する技術やビジネスが日々進歩するに伴い、仮想空間における模倣行為・デザイン盗用行為が出現している。現実空間と仮想空間を横断するこれらの行為について、現行法の著作権や意匠権では権利行使が難しい場合がある。そこで、不正競争の一類型である形態模倣行為の規制を活用してデザインの保護を図るため、不正競争防止法等の一部を改正する法律案が閣議決定され、通常国会に提出された[1](本コラム執筆時点)。


 本コラムでは、この論点に触れたうえで、今般の形態模倣行為に関する不正競争防止法改正法案について解説する。


2.   メタバースについて

 

 メタバースとはいわゆる仮想空間を指し、超越を意味する「メタ(meta)」と、宇宙や万物を意味する「ユニバース(universe)」を掛け合わせた造語とされている。


 「メタバースコマース」というメタバースとEコマースを掛け合わせた造語が現れるなど、ファッション業界や自動車業界、ゲーム業界など様々なジャンルで、新たなビジネス展開が行われている。


 例えば、現実世界で行われる商品販売をメタバース上で実現することで、消費者が商品を見たり試したりすることがより容易で自由になる。実際に、2023年3月に開催されたMetaverse Fashion Weekでは、多くの有名ブランドがデジタルファッションを展示したり、日産自動車が車選び・試乗から購入契約までをメタバース上で行う新たなプラットフォーム「NISSAN HYPE LAB(ニッサンハイプラボ)」の実証実験を始めたりしている。


 

出典:Metaverse Fashion Week ウェブサイト[2]/NISSAN HYPE LABウェブサイト[3]


3.   メタバース上でのデザイン保護

 

 メタバース(仮想空間)上で発生し得る事態として、現実世界で販売等された商品の模倣品を仮想空間に登場させたり、仮想空間で現実世界の商品デザインを盗用したりすることが考えられる。このように現実世界と仮想世界を横断するような模倣行為・デザイン盗用行為については、大きく分けて、著作権、意匠権、不正競争防止法に基づく対応が考えられる。以下でそれぞれ解説する[4]。


 出典:内閣府知的財産戦略推進事務局[5]


(1)      著作権法

 対象物が著作物として保護されるのであれば、著作権に基づく権利主張が考えられる。コンテンツに関する対象物であれば有効といえ、特にNFTマーケット等では著作権に基づく権利主張、削除要請は多く行われている。しかしながら、著作物として保護されるためには、思想又は感情の創作的な表現でなければならず、衣服や実用品のデザインなどについては、応用美術として認められる限られた場合を除いて、著作物とは認められず、著作権侵害を主張することは難しいだろう。


(2)      意匠法

 デザインが意匠として登録されていれば、意匠権に基づく権利主張が考えられる。しかし、現行法においては、有体物である物品とその形を模した仮想の3Dデータ等の無体物とでは機能・用途が異なることが多く、物品の意匠を仮想空間内で利用しても、類似の意匠の実施には当たらず意匠権侵害は成立しないと考えられている。


(3)      不正競争防止法

 著作権、意匠権には上記のような制約があるなかで、不正競争防止法で不正競争の一類型と定められている「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為」(同法2条1項3号、以下、本コラムでは「形態模倣行為」という。)による保護を有効活用できないかという議論が関係省庁等で行われ、法改正に向けて進められている。

 現行の不正競争防止法における形態模倣行為規制の要件、保護期間、効果をまとめると以下のとおりである。


要件


①他人の商品の形態を

本条で保護される「商品の形態」とは、「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」を指す(2条4項)。但し、当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。

②模倣した商品を

本条でいう「模倣」とは、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」を指す。(2条5項)
③譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
模倣行為自体は規制対象ではなく、これを譲渡等する行為があってはじめて規制対象となる。

保護期間

日本国内において最初に販売された日から起算して3年間(19条1項5号イ)

効果
民事上の差止請求、損害賠償請求(3条、4条)
刑事罰:5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科(21条2項3号)


 現行の不正競争防止法においては、仮想空間上でデザインを模倣した商品を取引する行為が上記形態模倣行為の要件③に含まれるかに疑義があった。そこで、今般の改正法案では、「電気通信回線を通じて提供する行為」を形態模倣の一類型に含めることにより、仮想空間での模倣品の販売行為等を不正競争行為の対象として明確化した。

 国会提出されている2条1項3号の改正案は以下のとおりである(下線部が改正部分)。


 「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」


 なお、今般の形態模倣行為に関する改正法案では、(a)要件①の商品に無体物が含まれると明記すること、(b)保護期間を伸長することも議論された。もっとも、(a)については逐条解説[6]等にて「商品」に無体物が含まれると解釈を明確化したうえで今後の裁判例の蓄積を注視すること、(b)については引き続き議論を継続することとして、今般の改正法案には含まれなかった[7]。


4.   今後の課題


 メタバース(仮想空間)における模倣行為・デザイン盗用行為について、迅速に不正競争防止法の改正が進められていることは歓迎すべき動きである。一方、実務上の運用としてどこまで機能するかについては以下の懸念が残ると考える。


 実際に模倣行為・デザイン盗用行為があった場合に、もっとも簡便で迅速に取り得る対策としては、プラットフォーマーに対する削除要請(テイクダウン)である。しかしながら、商標権や著作権に比べて、不正競争防止法単独での法的根拠に基づく削除要請は認められづらい。外観からある程度容易に侵害を判断できる商標権や著作権に比べ、不正競争防止法に基づく主張は、法的評価を含む点が多く、プラットフォーマーで容易に判断できないことが原因と考えられる。


 権利者が個別に侵害者に対して警告する等の場合であれば、不正競争防止法単独での主張に効果があるかもしれないが、侵害事例が大量に発生した場合には、侵害者をそれぞれ特定して個別に対応していくことは現実的ではない。


 加えて、メタバース全般に言えることであるが、形態模倣行為を不正競争防止法で保護していない国もあり、準拠法の問題もある。


 以上のとおり、改正法案が施行された後、機能的に運用していくにあたり、削除要請が円滑に進むようプラットフォーマーと調整するなどの実務上の課題が今後発生すると思われ、動向を注視していく必要がある。


[1] 経済産業省ニュースリリース(2023年3月10日)

https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230310002/20230310002.html

[2] https://mvfw.org/

[3] https://www.nissan.co.jp/HYPELAB/

[4] 商標登録がありこれが無断で使用されている場合には、商標権に基づく権利行使も考えられる。但し、現実空間の商品を指定した登録である場合、仮想空間での商品については類似性が認められず権利主張できない可能性が高い。商標の登録を仮想空間の商品も指定したうえで出願することが望ましい。

[5]内閣府知的財産戦略推進事務局「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議(第2回)」資料2-2の68頁(2023年3月16日)

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kanmin_renkei/kaisai/dai2/siryou2-2.pdf

[6] 経済産業省では、不正競争防止法の逐条解説を発行している。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/unfaircompetition_new.html

[7] 経済産業省「デジタル時代におけるデザインの保護(形態模倣)」(2022年10月)

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiteki_zaisan/fusei_kyoso/pdf/018_04_00.pdf


著者情報

IP FORWARD 法律特許事務所

日本国弁護士・弁理士

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