コラム

不正商号是正を求める行政申立

 中国における不正商号被害はいまだ数多く存在している。これが多発する理由としては、主に下記二点が挙げられる。

①企業名(商号)の登録審査の際に先行商標などとの抵触性も殆ど審査されない点

②従来から不正商号に対する効果的な救済手段である民事訴訟を実施するにあたってのハードルが低くなく結果として放置されてしまうことが多い点

 上記状況に拘わらず、近年、一部地域においては商号に関する法改正などが行われ、行政当局を通じた権利行使も効果を発揮しつつあり、弊方での成功事例も増えてきたため、今号では行政当局を通じた不正商号対応の概要についてご紹介したいと思う。


関連規定


 不正商号については、後述のとおり「反不正当競争法」「企業名称登記管理条例」等の関連規定に基づき、不正商号の変更や抹消を申立することになり、上述した民事訴訟の他、管轄の行政当局(一般的には工商局となる)経由でも法律上可能であるが、余程世界的に知名な権利者・ブランドでない限り、積極的に対応してくれないのが実情であった。その主な理由として下記が挙げられる。

①もとより行政当局の法的判断力は弱く自らの認定結果が後々問題となることを恐れ積極的に認定を行いたくない傾向がある

②仮に侵害認定を行なったとしても、その後の執行が困難である

 しかし近年、中国政府も本問題を重視するようになり、各地方において以下のような不正商号を取り締まる関連規定や意見が公布された。公布時期から時間が経過する中、これらの規定の執行実務も徐々に固まりつつあり、弊方においてもこれらの新しい規定に基づいて行政当局に申立てる事案が増えてきており、特に広東省内においては行政当局が不正商号に関する認定・変更命令が下される成功事例も少しずつであるが増えてきている傾向がある。


図1:近年公布された不正商号を取り締まる関連規定(一部)


不正商号是正に対する行政申立の流れ


2:不正商号是正に対する行政申立のイメージ図

①   侵害業者の調査

 まず、いかなる対応をとるにしても、侵害業者は誰か、どこにいるのか、どのような侵害行為が行われているのかを把握しない限り、適切な対応をとることは困難である。特に侵害業者に関する不正商号以外の、何らかの侵害行為や不正行為も存在する場合、併せて当局に証拠提出すると、かかる成功率も高くなるため、事前の調査は不可欠である。また、不正商号の登録が確認されたとしても、これが実際に不正利用されているか否かで、フリーライド被害の大小、対策の緊急度が異なってくるため、この観点からも同調査が重要となる。

 なお、調査の手法については、過去のトピックでも何度か取り上げているが、主に、インターネット調査(登記情報をはじめとする侵害業者の基本情報を収集)、及び、実地調査(調査員を対象業者の所在地に派遣して、同業者の事業状況を確認し、登記情報との相違の有無を確認、不正商号以外の侵害行為の有無などを収集)が中心となることが多い。


②   管轄当局への申立

 基本的には、申立書、権利者や侵害業者の企業基本資料、商標登録書等の権利書類(商標権侵害を主張するか否かにかかわらず、先行権利を有することの証拠として提出することが多い)、その他侵害行為に関する証拠といった必要書類を事前に準備して、管轄当局の窓口まで持参して、当局の担当者と協議するという流れとなる。この点、不正商号の場合、これによって誤認混同するということが重視されるため、対象商号の中国での知名度にかかる証拠も、必ず提出した方がよく、弊方の実務経験上、これの多寡によって申立の成功率が変わる傾向がある。

 なお、申立時の法律根拠は基本的には以下のとおりであるが、案件内容や対象地方に応じて、都度検討していく必要がある。

「企業名称登記管理規定」第5条、第9条、「反不正当競争法」第2条、第5条、「商標法」第58条、その他近年公布された不正商号を取り締まる関連規定など


図3 知名度を証明する証拠例


③   当局による調査

 不正商号に関する行政申立の場合、模倣品行政摘発とは違い、原則として侵害業者に対する現場調査(当局の職員が侵害業者に赴いて現場検証し、関連証拠を収集・押収するなど)は行われず、専ら当局内部での調査、検討が行われることになる。その間、当局は必要に応じて、当事者(権利者ないし侵害業者)を召喚する、あるいは書面ベースで事情聴取をすることもある。なお、当局による調査にかかる所要時間については各地方の規定・実務によって異なるが、一般的には、3ヶ月前後である。


④   行政処罰

 これまでの弊方の成功事例を踏まえると、当局にて、不正商号との認定が行われた場合、侵害業者に対しては「改正通知書」が発行され、「期限内に商号を変更せよ」といった命令内容となっており、不正商号との認定が下されたとしても、直ちに当局の方において、強制的に不正商号を変更する訳ではなく、まずは自主的な変更を侵害業者に求めることになる。     

 この点、従来は、商号のない状態で企業登記が存続することが認められず、また、企業登記機関が勝手に新たな商号に変更することもできないため、侵害業者自ら新たな商号を登録しない限りは、不正商号は登記上、そのまま存続し、行政処罰決定は、いわば「絵に描いた餅」に終わることが多かった。しかし、こうした状況は中国政府も問題視されていたことから、近年、図1記載の各規定のとおり、新商号が確定されなくても、不正商号を強制的に抹消して、中国政府が法人を管理するために個々に発行する統一社会信用コード(数字の羅列)に置き換えるという措置が規定されるようになり、徐々に同運用がなされるようになってきている。


図4 「改正通知書」のイメージ


まとめ

 不正商号問題は、長年、法律、実務運用の欠陥にも起因して、多くの日本企業を悩ませてきた問題であったが、上述してきたとおり、近年、法環境が変わりつつあり、行政ルートによる是正制度が強化されて使いやすくなってきている。民事訴訟の場合、損害賠償請求ができるというメリットはあるが、これを求めず、迅速かつ安価に不正商号の是正を求めることを主眼とされたい場合においては、今後、積極的に同ルートの活用を検討されると良いと思料する。


著者情報

IP FORWARD法律特許事務所

中国弁護士

周 婷

周 婷/Zhou Ting

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