中国コンテンツ市場コラム‐第5回【中国映画市場】上映前事前コラボの重要性─「鬼滅の刃」「ズートピア2」の成功例
今回の記事は、2025年の最終2か月弱の間に、中国市場だけで6.78億元(約156億円)を売り上げた『鬼滅の刃 無限城編』と、45.94億元(約1057億円)に達した『ズートピア2』が、どんなコラボを展開していたかを発信する11月上旬の記事に基づいている。
日本映画の歴代興行収入は、『すずめの戸締まり』(2023)の8億元(184億円)を筆頭に、2位『君たちはどう生きるか』(2024)、3位『君の名は。』(2016)に続き、今回の『鬼滅の刃』が歴代4位にランクインした。『鬼滅の刃』は公開前から多くの期待を集めていたが、11月中旬からの急激な日中関係悪化により、12月中旬以降は中国全土でほぼゼロ売上。たった1ヵ月しか興行できなかったことがこの結果に「落ち着いてしまった」のは残念でしかない。それでも日本で400億円、米国1.36億ドル(約211億円)、中国6.78億元(約156億円)、次が韓国の4200万ドル(約65億円)と全世界興収における中国市場の割合は非常に高い。
今回は、そのプロモーションがどのように中国国内で行われていたかを振り返る。
■日本発映画の中国興行収入歴代トップ5 ■米国発映画の中国興行収入歴代トップ5

2025年不調だった中国映画市場を盛り上げた『鬼滅』と『ズートピア』
2025年10月、中国映画業界は今年再び「暗黒の1か月」を迎えた。月間興行収入は26億元(598億円)にとどまり、2014年の27.5億元すら下回った。年間累計で見ると、11月10日時点の全国総興行収入は450億元(約1兆350億円)に達したが、500億元の大台まで残り50億元の差があり、11月~12月の成績が極めて重要となっていた(最終的に2025年の累計興行収入は512億元(約1.2兆円)と、好調のままに決着している)。
この年末の興行ラストスパート期において、公開を控える大型作品はそれほど多くなかった。その中で注目を集めていたのが、11月14日公開の『鬼滅の刃:無限城編 第一章 猗窩座再来』(以下『鬼滅の刃』)と、11月26日公開の『ズートピア2』であった。この両作が、この冬の映画市場を再び盛り上げる存在として大きな期待を背負い、どんな結果を残したか、中国市場における観点でレポートを分析したい。

注目すべきは、これら二大IPの商業的な爆発がスクリーンの内側にとどまらない点だ。「感情経済」の台頭という時代背景のなか、商業展開は映画公開前からすでに始動していた。雷報(メディア)の統計によれば、当時、両IPに関連するコラボレーションは56件を超えており、キャラクターグッズ、トイフィギュア、カフェ・レストラン、ファッション、美容、家電、デジタル製品など、多岐にわたる分野で展開されていた。
興行収入の行方が注目される中、コラボ市場の熱気が先行する――果たして両IPは期待通りの成績で年末市場を盛り上げたのか?50件を超えるコラボの裏で、どの企業がいち早く「IPボーナス」を獲得したのか?以下、公開資料とデータに基づいて分析する。
『ズートピア2』の「観たい」人数は『哪吒(Nezha)』に迫り、『鬼滅の刃』は前売り1億元(23億円)を突破──世界的IPは国内映画市場を再び燃え上がらせることができるか?
両作品の最終興行を予測する上では、公開前の観客関心度が一つの指標になる。11月10日19時時点で、『鬼滅の刃』と『ズートピア2』の「観たい(想看)」登録者数(猫眼+淘票票合算)はそれぞれ113.5万人、300.6万人を突破し、同時期公開予定作品の中で断トツのトップを走っていた。


『鬼滅の刃』の最終的な登録者数は130万人前後と見られ、日本アニメ最高記録の『すずめの戸締まり』(8.07億元/176.8万人)には及ばない。一方、『ズートピア2』は『哪吒之魔童鬧海(邦題:ナタ 魔童の大暴れ)』(154億元/304.3万人)に迫る勢いで、最終的には確実に上回る見込みだ。
ただし、「観たい」登録者数はあくまで初期関心度を示すものであり、最終的な興行収入と必ずしも比例するものではない。例えば、2020年の『姜子牙(Legend of Deification)』は登録350万人を超えたものの、口コミが伸び悩み最終興行収入は16億元(368億円)に留まった。逆に2025年の『浪浪山小妖怪(Nobody)』は登録わずか49.7万人だったが、高い評価を得て最終興行収入17.14億元(394億円)のヒットを記録している。
さらに、より重要な前売りデータを見ると、『鬼滅の刃』は公開4日前の時点で先行上映(点映)と前売り合計がすでに1億元(23億円)を突破、11月興行ランキングの暫定1位を獲得している。この勢いは、輸入アニメ史上最高の前売り記録を持つ『スラムダンク』(1.15億元=26.5億円)を超える可能性もある。もっとも、『鬼滅の刃』の国内知名度は『すずめの戸締まり』や『スラムダンク』ほど高くはないため、観客層は比較的限定的だ。それでも、シリーズとして初めて中国の大スクリーンで上映される作品という点で、その潜在的爆発力は大いに注目されていた。

一方、『ズートピア2』はファミリー向け作品で広い層に訴求できるが、近年のディズニーおよびハリウッド作品の中国興行の低迷を踏まえると、前作ほどの記録更新には不透明さも残されていた。実際、2019年以降、ハリウッド映画で中国興行収入が15億元(約345億円)を突破したのは『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のみである。ディズニーアニメも『アナと雪の女王2』以降の6年間、4億元(92億円)を超える作品が出ていない。その意味では、業界が予測していた『ズートピア2』の興行収入8.5〜15億元(195.5億~345億円)という数字は、むしろ楽観的とも言えるものだった。

『鬼滅』15件、『ズートピア』41件、上映前から活発化するコラボ
映画の興行結果が出る前から、IPコラボの「収穫」は始まっていた。雷報の統計によると、当時「鬼滅の刃」は15件、「ズートピア」は41件、合計56件以上のコラボが展開されていた。
コラボ分野は、キャラクターグッズ、トレーディングカード、カフェ、レストラン、ファッション、家電など多岐にわたり、特に「飲食系」と「玩具・グッズ系」が中核を占めていた。
中でも話題を集めたのが、瑞幸咖啡(Luckin Coffee)×『鬼滅の刃』のコラボだ。価格設定やデザイン面で賛否はあったものの、短期的な売上は堅調で、抖音(TikTok中国版)と美団の合計販売額はそれぞれ390万元(8970万円)、225万元(5175万円)に達した。さらに11月17日からは『ズートピア2』との新コラボが始まり、LuckinのIP戦略への注力度がうかがえる。2025年上半期だけでも、瑞幸の販売およびマーケティング費用は10.9億元(250.7億円)に達し、前年比43.6%増加し、総収益の割合も6.7%に達した。
プレミアムコーヒーブランド「三頓半(SANDUNBAN)」も、7月に『ズートピア』とのフリーズドライコーヒーコラボを展開し、10月には『ズートピア2』の新シリーズを発売。淘宝(タオバオ)と抖音の合計販売額はそれぞれ235万元(5405万円)、183万元(4209万円)を記録した。
また、母子ケアブランド「兔頭媽媽(兔頭ママ)」は8月末から『ズートピア』とのコラボで歯磨き粉やリップクリームなどを発売し、淘宝と抖音でそれぞれ303万元(6969万円)、675万元(1億5525万円)を売り上げた。オンライン売上としては唯一の1000万元(2.3億円)級のコラボとなっている。
「POP MART(ポップマート)」と『ズートピア2』のコラボでは、MOLLYシリーズなど3種のフィギュアを展開したが、売上は限定的。淘宝と抖音の合計でそれぞれ105万元(2415万円)、125万元(2875万円)にとどまっていた。

また、両IPともオフライン展開にも力を入れており、『ズートピア』は美的(Midea)、玩具反斗城(トイザらス)、名創優品(MINISO)、三頓半などと協業してIPポップアップを開催した。
『鬼滅の刃』も、ULTRIZONが11月公開当日に全国48都市54カ所で大規模ポップアップを展開。奇萌盾甲グループ傘下の「鈍感光波」も、上海・杭州・深圳でのポップアップ展開を予定しており、同社は年間数千万元(数億円)規模のIP空間ビジネスを展開している。

映画公開前の段階から商業化が進むのは、近年の中国IP市場ではもはや珍しくない。「グッズ経済」を中心に、コンテンツ創作 → IP育成 → 商業化・収益化というサイクルがすでに確立しつつある。
映画は短期的に爆発的な勢いを持つコンテンツ商品であり、その価値はもはや映画産業の枠を超えて、玩具・ファッション・飲食など多分野を結びつける「商業ハブ」となっている。このため、多くの映画会社がIP商業化への投資を強化している。
特に『鬼滅の刃』と『ズートピア』が早い段階からコラボを展開できたのは、既存IPとしての長期運営実績とファン層の厚みに支えられているからである。また、2025年後半に露出機会が多かったことも追い風となった。『鬼滅の刃』は7月に日本で先行公開され、香港・台湾市場を経てSNSを通じて中国本土に話題が波及。『ズートピア2』は8月に前作の再上映を実施し、観客の記憶喚起と話題醸成を図った。IPホルダーにとっても、ブランドコラボは宣伝戦略の重要な一環である。ブランドの販売チャネルと映画宣伝が相互に補完し、IPの熱度を長期間維持することができる。
将来、中国映画市場が500億元、あるいは1000億元規模に達するかが注目される一方で、真に重要なのはスクリーン外でのIP長期価値競争である。映画産業の未来は、興行だけでなく、IP商業生態系(エコシステム)の全領域を制することにかかっている。
出典:https://mp.weixin.qq.com/s/leIrxgQL3XwHHR8ylt6GfA
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
日本企業にとって、2026年という年はこうした豊饒な中国映画市場にアクセスする手段を失い、受難の1年となる。それでも中長期で見たときに、米国と並ぶほどに大きなファンダムと収益が期待できる中国市場、このまま退潮していくにはあまりにもったいない。
コラム記載者紹介
IP FORWARD顧問:中山淳雄


