新領域に関する中国の知財強化戦略 〜統計動向、第15次五か年計画、代表企業動向から読み解く2026年の展望〜
<はじめに>
中国では近年、知的財産政策が単なる量的拡大型から、国家戦略分野への重点配分型へと転換している。特にAI、半導体、量子技術、6G、バイオ、EV・次世代電池などの新興領域では、知財制度そのものが国家戦略遂行のインフラとして機能している。本稿は2025年の統計データ、第15次五か年計画(十五五)、および代表的中国企業の知財戦略を整理し、2026年以降の中国知財環境の方向性を探る。
<2025年統計から見る中国知財構造の変更>
2025年統計によれば、中国国家知識産権局が公開した主要項目は以下の通りです(出典:CNIPA 2025 年度レポートほか)。
専利出願件数:582万件程度
出願件数(万件)

世界最大規模の特許出願件数を維持しているが、構造面では以下のような重要変化が見られる。
・実用新案の登録件数は減少傾向
・発明特許の審査基準の厳格化
・不正出願・形式的出願の抑制
・高価値特許の割合向上を政策目標に明示
実用新案や意匠を含めた大量出願が特徴とされてきたが、2024〜2025年にかけて、発明特許の質を重視する方向が明確になってきており、特許の「件数」ではなく、「技術的高度性」「産業的価値」「標準化への寄与」といった評価軸が強調されている点は重要である。
(2)AI・新興分野への出願集中
AI関連特許出願は引き続き増加しており、アルゴリズム、データ処理、画像認識、生成AI関連技術などの分野で出願が集中している。また、半導体装置、材料、量子通信など、いわゆるボトルネック技術に関する特許出願も増加傾向にある。
統計的には、AI・デジタル関連分野が全体出願の中で占める割合が拡大しており、中国の知財活動が国家重点産業に沿って再配分されていることが確認できる。
(3)商標制度の戦略産業連動
商標分野でも、迅速審査制度の対象として、商業宇宙、低空経済、未来産業などが明示的に追加されている。これは、単なるブランド保護ではなく、「戦略産業の市場形成を加速させるインフラ」として商標制度が活用されていることを意味する。
<第15次五か年計画(十五五)と知財政策の位置づけ>
2026年から本格化する第15次五か年計画(2026–2030年)は、中国の産業高度化を加速させる計画として位置づけられている。知的財産政策は、その中核インフラとして組み込まれている。
(1)「新質生産力」と知財
十五五では、「新質生産力(新たな質の生産力)」の育成がキーワードとなっている。これは、ハイエンド製造、デジタル経済、グリーンエネルギー、AI・自動化、先端材料といった分野を指す。
知財制度は、これら分野における技術成果の保護・流通・担保融資・標準化を支える基盤とされている。すなわち、特許は単なる権利ではなく、「金融資産」「国家競争力の構成要素」として再定義されている。
(2)国際ルール形成への関与
十五五では、中国が国際知財ルール形成に積極的に関与する方針も強調されている。WIPOや標準化機関での影響力拡大、データ・AI関連のルール形成への参加は、今後さらに強まると見られる。これは、日本企業にとって、中国市場のみならず、国際交渉の場面でも中国企業の知財影響力が増す可能性を意味する。
<中国企業の知財戦略動向>
ここでは、分野別・企業別により具体的な知財動向を整理する。
(1)通信・標準分野
Huawei
・5G/6G関連特許ポートフォリオは世界トップクラス
・年間特許維持料(IPP)への積極投資
・欧州・アジアの主要市場で標準関連訴訟/ライセンス交渉を展開
ZTE
・SEP件数増加と投資強化
・国際標準化機関での立場強化に注力
これら企業は、標準化と権利活用(ライセンス・交渉力)をセットで戦略化しています。
(2)EV・バッテリー分野
BYD
・車両統合制御・電池熱管理等で発明特許を多数保有
・海外拠点の出願戦略も積極化
CATL
・電池セル・モジュール・BMS関連の特許ポートフォリオを厚く構築
・国際特許制度を活用した競争力強化
いずれも、製造戦略と知財戦略を一体化し、サプライチェーン全体で優位性を確保しています。
(3)AI分野
Alibaba
・クラウド/データ処理/アルゴリズム領域で発明特許を増加
・グループ内での権利運用統制(広告AI等)
Tencent
・AIモデル最適化/画像/音声処理関連の重点出願
・ゲーム・プラットフォームの技術保護強化
ByteDance
・エッジAI/推薦エンジンなどのコア技術保護
・グローバル出願戦略を強化
中国のAI系企業は、特許・著作権・データガバナンスを包括的に組み合わせた戦略を展開しています。
<まとめ>
中国の知財制度は、単なる権利登録制度の枠を超え、国家戦略や産業政策と密接に結びついた構造へと進化している。2025年の統計データや十五五計画の方向性、さらに代表的企業の動向を踏まえると、中国の知財環境は「量の拡大」から「質と戦略性の重視」へと確実に転換しつつあることが分かる。この変化は、日本企業にとって単なる制度情報ではなく、中国企業の発明特許ポートフォリオが高度化し、標準分野やAI領域での存在感が増すなかで、日本企業は、自社の技術ポジションやライセンス戦略を再評価する必要がある。また、AIやデータ関連の技術に関しては、権利取得だけでなく、契約管理やデータ利用の適法性確保といった周辺制度への対応も含めた包括的な設計が求められる。
IPFでは、こうした制度動向の継続的な分析に加え、特定分野・特定企業の特許ポートフォリオ調査、出願戦略の比較分析、標準関連動向の把握など、具体的な企業動向詳細調査サービスも提供しており、中国市場における自社のポジションを客観的に把握したい場合や、競合企業の経営・知財戦略をより詳細に分析したい場合には、ぜひお気軽にご相談いただきたい。
以上
編集・翻訳者情報
担当:IP FORWARDグループ

