作品名及びキャラクター名の『商標法』第三十二条における「先行権利」に関する司法認定
(一)作品名及びキャラクター名に係る先行権利保護の司法実務
本件における争点は、係争商標の出願・登録が、娱乐壹社が「小猪佩奇」の作品名及びキャラクター名に関する先行権利を侵害し、『商標法』第三十二条に定めている「商標登録の出願は、他人の現存する先行権利を害してはならない」の規定に違反するか否かにある。
作品名及びキャラクター名に関する「先行権益」とは何かを判断するにあたっては、その商品化権益の概念についての整理と検討が必要である。中国においては、商品化権益はいまだ法定の権利概念又は権利類型とはされておらず、あくまで記述的な称呼にとどまるものである。一般的には、作品名及びキャラクター名を特定の商品又は役務と結び付け、その知名度を利用して商業活動を行い、又は市場上の利益を獲得することにより生じる民事上の利益を指しており、前記の範囲を商品化権益と称することがよく現れている。
商標の登録・権利確定に関する行政判例において、『商標法』第三十二条の「先行権利」条項を根拠として、高い知名度を有する作品名及びキャラクター名に係る商品化権益を保護することは、現在の司法実務における共通認識となっている。しかしながら、この共通認識は一朝一夕に形成されたものではなく、商品経済の発展に伴い、司法機関が実務上ますます切実となった商品化権益保護の要請に直面しつつ、段階的に模索・適用を重ねた結果として形成されたものである。その発展過程は、おおむね三段階に区分することができる。すなわち、①不保護から保護へ、②先行権利としてではない保護から先行権利としての保護へ、③「商品化権」としての権利保護から「商品化権益」としての利益保護へと至る過程である[3]。
具体的にみると、初期の「梵净山」商標争議行政事件[4]において、一審裁判所は、当事者が主張する商品化権は法定の権利ではないとして、係争商標は2001年商標法第三十一条にいう「他人の現存する先行権利を侵害する」場合[5]には該当しないと判断した。その後、司法の態度は次第に変化した。「哈利・波特 HaLiBoTe」商標異議再審行政事件[6]においては、二審ともに、「哈利・波特」「ハリーポッター」が人物キャラクター名として高い知名度を有し、係争商標がこれに類似することは、信義誠実の原則及び公序良俗に反し、2001年商標法第十条第一項第(八)号の規定に違反すると判断した。
また、「黑子的篮球」商標無効宣告請求行政事件[7]において、一審裁判所は、他人が創作したアニメ作品の名称及びそのキャラクター名等を商標として登録する行為は信義誠実の原則に反するものであり、係争商標は2001年商標法第四十一条第一項に定める「その他の不正な手段により登録を取得した」場合に該当すると判示した。
さらに、「邦德007 BOND」商標異議再審行政事件[8]以降、裁判所は、商品化権益が保護されるべき民事上の権益に該当することを明確に認め、『商標法』第三十二条の「先行権利」条項を根拠としてこれを保護する試みを開始した。例えば、「驯龙高手」商標異議再審行政事件[9]において、二審裁判所はいずれも、係争商標が映画作品「驯龙高手」の作品名に係る関連権益を害するものであるとして、当該商標の登録は2001年商標法第三十一条の「商標出願は他人の現存する先行権利を害してはならない」との規定に違反すると判断した。
これらの司法実務を総括した上で、最高人民法院は2017年に『商標授権確権行政事件の審理に関する若干問題の規定』を公表した。同規定第二十二条第二項[10]は、「先行権利」という文言を用いて、作品名及びキャラクター名に係る商品化権利が法的保護の対象となり得ることを初めて明示的に肯定した。さらに、2019年には、北京市高級人民法院が『商標授権確権行政事件審理ガイドライン』を公表し、商品化権利に関する文書表現、認定要件及び制限条件を詳細に定め[11]、作品名及びキャラクター名の商品化権利保護について、より具体的な司法指針を示した。
これ以降の司法実務においては、裁判所は、作品名及びキャラクター名が高い知名度により生じた、保護されるべき民事上の利益を指す用語として「先行権利」を用いる傾向を強め、「商品化権利」という用語の使用については慎重な姿勢を取るようになっている。本件における「小猪佩奇」の作品名及びキャラクター名についても、先行権利を構成すると認定されたことを前提に、『商標法』第三十二条の「先行権利」条項が適用され、係争商標の無効が宣告されたものである。
参考文献
[3]孔祥俊「作品名称及びキャラクター名称の商業化権益に関する再考と再構築――保護の正当性及び保護ルートに関する実証分析」『現代法学』2018年、第40巻第2号、59頁。
[4]北京市第一中級人民法院(2010)一中知行初字第432号行政判決。
[5]2001年商標法第三十一条の内容は、現行商標法第三十二条と完全に同一である。
[6]北京市第一中級人民法院(2010)一中知行初字第401号行政判決;北京市高級人民法院(2011)高行終字第541号行政判決。
[7]北京知的財産裁判所(2015)京知行初字第6058号行政判決。
[8]北京市高級人民法院(2011)高行終字第374号行政判決。
[9]北京市第一中級人民法院(2014)一中知行初字第8924号行政判決;北京市高級人民法院(2015)高行(知)終字第1020号行政判決。
[10]最高人民法院『商標授権確権行政事件の審理に関する若干問題の規定』第二十二条第二項。
[11]北京市高級人民法院『商標授権確権行政事件審理ガイドライン』第16.18条、第16.19条、第16.20条。
本件における争点は、係争商標の出願・登録が、娱乐壹社が「小猪佩奇」の作品名及びキャラクター名に関する先行権利を侵害し、『商標法』第三十二条に定めている「商標登録の出願は、他人の現存する先行権利を害してはならない」の規定に違反するか否かにある。
作品名及びキャラクター名に関する「先行権益」とは何かを判断するにあたっては、その商品化権益の概念についての整理と検討が必要である。中国においては、商品化権益はいまだ法定の権利概念又は権利類型とはされておらず、あくまで記述的な称呼にとどまるものである。一般的には、作品名及びキャラクター名を特定の商品又は役務と結び付け、その知名度を利用して商業活動を行い、又は市場上の利益を獲得することにより生じる民事上の利益を指しており、前記の範囲を商品化権益と称することがよく現れている。
商標の登録・権利確定に関する行政判例において、『商標法』第三十二条の「先行権利」条項を根拠として、高い知名度を有する作品名及びキャラクター名に係る商品化権益を保護することは、現在の司法実務における共通認識となっている。しかしながら、この共通認識は一朝一夕に形成されたものではなく、商品経済の発展に伴い、司法機関が実務上ますます切実となった商品化権益保護の要請に直面しつつ、段階的に模索・適用を重ねた結果として形成されたものである。その発展過程は、おおむね三段階に区分することができる。すなわち、①不保護から保護へ、②先行権利としてではない保護から先行権利としての保護へ、③「商品化権」としての権利保護から「商品化権益」としての利益保護へと至る過程である[3]。
具体的にみると、初期の「梵净山」商標争議行政事件[4]において、一審裁判所は、当事者が主張する商品化権は法定の権利ではないとして、係争商標は2001年商標法第三十一条にいう「他人の現存する先行権利を侵害する」場合[5]には該当しないと判断した。その後、司法の態度は次第に変化した。「哈利・波特 HaLiBoTe」商標異議再審行政事件[6]においては、二審ともに、「哈利・波特」「ハリーポッター」が人物キャラクター名として高い知名度を有し、係争商標がこれに類似することは、信義誠実の原則及び公序良俗に反し、2001年商標法第十条第一項第(八)号の規定に違反すると判断した。
また、「黑子的篮球」商標無効宣告請求行政事件[7]において、一審裁判所は、他人が創作したアニメ作品の名称及びそのキャラクター名等を商標として登録する行為は信義誠実の原則に反するものであり、係争商標は2001年商標法第四十一条第一項に定める「その他の不正な手段により登録を取得した」場合に該当すると判示した。
さらに、「邦德007 BOND」商標異議再審行政事件[8]以降、裁判所は、商品化権益が保護されるべき民事上の権益に該当することを明確に認め、『商標法』第三十二条の「先行権利」条項を根拠としてこれを保護する試みを開始した。例えば、「驯龙高手」商標異議再審行政事件[9]において、二審裁判所はいずれも、係争商標が映画作品「驯龙高手」の作品名に係る関連権益を害するものであるとして、当該商標の登録は2001年商標法第三十一条の「商標出願は他人の現存する先行権利を害してはならない」との規定に違反すると判断した。
これらの司法実務を総括した上で、最高人民法院は2017年に『商標授権確権行政事件の審理に関する若干問題の規定』を公表した。同規定第二十二条第二項[10]は、「先行権利」という文言を用いて、作品名及びキャラクター名に係る商品化権利が法的保護の対象となり得ることを初めて明示的に肯定した。さらに、2019年には、北京市高級人民法院が『商標授権確権行政事件審理ガイドライン』を公表し、商品化権利に関する文書表現、認定要件及び制限条件を詳細に定め[11]、作品名及びキャラクター名の商品化権利保護について、より具体的な司法指針を示した。
これ以降の司法実務においては、裁判所は、作品名及びキャラクター名が高い知名度により生じた、保護されるべき民事上の利益を指す用語として「先行権利」を用いる傾向を強め、「商品化権利」という用語の使用については慎重な姿勢を取るようになっている。本件における「小猪佩奇」の作品名及びキャラクター名についても、先行権利を構成すると認定されたことを前提に、『商標法』第三十二条の「先行権利」条項が適用され、係争商標の無効が宣告されたものである。
参考文献
[3]孔祥俊「作品名称及びキャラクター名称の商業化権益に関する再考と再構築――保護の正当性及び保護ルートに関する実証分析」『現代法学』2018年、第40巻第2号、59頁。
[4]北京市第一中級人民法院(2010)一中知行初字第432号行政判決。
[5]2001年商標法第三十一条の内容は、現行商標法第三十二条と完全に同一である。
[6]北京市第一中級人民法院(2010)一中知行初字第401号行政判決;北京市高級人民法院(2011)高行終字第541号行政判決。
[7]北京知的財産裁判所(2015)京知行初字第6058号行政判決。
[8]北京市高級人民法院(2011)高行終字第374号行政判決。
[9]北京市第一中級人民法院(2014)一中知行初字第8924号行政判決;北京市高級人民法院(2015)高行(知)終字第1020号行政判決。
[10]最高人民法院『商標授権確権行政事件の審理に関する若干問題の規定』第二十二条第二項。
[11]北京市高級人民法院『商標授権確権行政事件審理ガイドライン』第16.18条、第16.19条、第16.20条。
※本稿は『中華商標雑誌』掲載記事に基づく https://mp.weixin.qq.com/s/vo0Z7wTxycedkNY__02iew
編集・翻訳者情報
担当:IP FORWARD法律特許事務所

