コラム

中国商標出願における典型事例解説―「型番」を例としての一考察―

 新「商標法」は 2019年 11 月 1 日の実施から、すでに6年以上が経過しました。その新「商標法」の実施に伴い、商標審査・審理基準も新たに改正されています。「識別力」に関する審査の詳細について改めて訂正した点もあれば、従来の立法本意に従って持続した点もあります。

 なお、商標における識別力とは、消費者が商品の出所を判別するための特徴であり、言い換えれば「誰の商品・役務・サービスかを識別するための目印となる力」のことを指します。

 実は、商標の審査にあたり、識別力の審査は重要な一環となっています。そのため、法改正後、識別力に関する審査は、以前に比べてますます厳しくなる傾向があり、識別力問題が原因となった登録の拒絶も増える可能性があります。その一方で、一度識別力が原因で登録の拒絶となった商標は必ずしも登録できないわけではなく、実際に拒絶査定不服審判で拒絶査定を覆して、一転登録となる事例もあります。

 以下に、型番と思われる中国商標に対し、拒絶査定不服審判において、官庁による商標の識別力の有無判断が行われ、登録出願が許可もしくは却下された事例を紹介します。
 
<事例1:第75184554号商標「747」の拒絶査定不服審判>
 
■案件概要
 
◆出願商標

◆国家知識産権局による拒絶理由
 
 当該商標は、指定役務に使用すると、識別力に欠けているため、商標として登録できないので、商標法第11条第3項の規定に従い、拒絶査定を下す。
 (商標法第11条第3項:そのほかの識別力に欠けているものは、商標とすることができない。)
 
◆拒絶査定不服審判での認定
 
 商標出願人は当局の拒絶査定に不服があり、拒絶査定不服審判を申請した。当局はその請求を受理し、現在、審理を終えている。

 拒絶査定不服審判の審査によって、以下のように認定された。

 出願商標「747」は普通形式のアラビア数字だけで構成されており、商標として指定役務に使用された場合に、役務の出所を区別する役割を果たすことが難しい。そのため、消費者に商標として認識させにくく、商標のあるべき顕著性に欠けている。

 上記を踏まえると、出願商標はすでに、『中華人民共和国商標法』第11条第1項第(3)号に規定された商標として登録してはならない情状に該当する。また、出願人より提出された証拠は、出願商標が使用を経て識別力を有することとなった点について説明できていない。

 商標登録者はそのほかの登録商標に対してそれぞれ独立した商標専用権を有しており、その他の商標登録状況は本件と異なり、本件商標登録の当然たる根拠ではない。

 よって、「商標法」第11条第3項、第30条、第34条の関連規定に基づき、出願商標は不服審判における役務においてその出願を却下する。
 
■IP FORWARD によるコメント
 
 この案件から、「単なる数字」のような商標に対し、官庁は商標全体の識別力が欠如していると判断する傾向が見られます。

 なお、この商標において、中国の識別力審査にあたり、マイナス評価とされた要素として下記2点が挙げられます。
 
①    「747」がデザインされた書体ではなく、アラビア数字の普通の書体であること
②    使用されている役務が知名商品「飛行機」ではないこと
 
①    については、単なる数字は、中国商標の視点では商標出所を表す機能に欠けており、大量な使用ではない場合はただの符号だと思われやすい傾向があります。
②    については、本件は41類の「教育」がその指定項目であり、「747」が一般的に知名度を獲得している「飛行機」商品、または「航空運輸」ではありません。「教育」に関して、「747」とボーイングの飛行機に関する役務を一般大衆に連想させることは難しいものがあります。
 
 上記を踏まえ、型番だと思われる出願商標を出願する場合には、なるべく大量に使用されている範囲で出願することも一案です。ただし、本件拒絶査定不服審判の結果が未発効であり、行政訴訟で大量な「教育」にかかわる使用証拠を追加提出した場合は、拒絶理由を覆す可能性もないとは言い切れません。
 
<事例2:第68709327号商標「E-S7」の拒絶査定不服審判>
 
■案件概要
 
◆出願商標

◆国家知識産権局による拒絶理由
 
 当該商標は、指定商品に使用すると、識別力に欠けているため、商標として登録できないので、商標法第11条第3項の規定に従い、拒絶査定を下す。
 
◆拒絶査定不服審判での認定
 
 商標出願人が当局の拒絶査定に不服があり、拒絶査定不服審判を申請した。当局はその請求を受理し、現在、審理を終えている。

 拒絶査定不服審判の審査を経て、指定商品において、「商標法」第11条第3項に規定される識別力欠如に該当することはないので、初歩査定を与える。

 よって、「商標法」第28条の関連規定に基づき、出願商標が不服審判における商品においてその初歩査定の関連手続きをする。
 
■IP FORWARDによるコメント
 
 本件商標は一見、「アルファベット+数字」からなり、典型的な型番の商標のように見えますが、最終的に、初歩査定が与えられました。

 その理由について、出願者が大量の使用証拠を提出することで、かかる商品における「型番」ではないことを証明できたことが考えられます。また、本件の出願人が「中国第一汽車集団有限公司」であることも理由の一つであると思われます。拒絶査定不服審判の際、このような大手の国営企業の出願について、官庁がその点を考慮する傾向がほかの出願者より高い可能性があると推測しています。

 もし中国で大手企業との協力関係がある場合には、上記の傾向を利用し、まず型番と思われる商標を中国企業から出願し、登録となれば譲渡することも一策として考えられます。
 
<事例3:第20400334号商標「GH 833」の拒絶査定不服審判>
 
■案件概要
 
◆出願商標

◆国家知識産権局による拒絶理由
 
 当該商標は、指定商品に使用すると、識別力に欠けており、品質特徴への欺瞞性があるため、商標として登録できないので、商標法第11条第3項、第10条第1項第(7)号の規定に従い、拒絶査定を下す。
 
◆拒絶査定不服審判での認定
 
 商標出願人が当局の拒絶査定・拒絶査定不服審判に不服があり、行政訴訟を申請した。当局はその請求を受理し、現在、審理を終えている。

 本件に関する行政訴訟において、以下のように認定された。

 裁判所の判決では、出願商標の外観上は普通の商品型番の組み合わせ方と類似しているが、出願人から提出された既存の証拠に基づき、出願商標のアルファベットと数字は、普通の商品型番の中における品質の特徴を表すアルファベットと数字の組み合わせとは異なっており、出願商標は「塗装機」などの商品特徴に関する記述ではないとされた。よって、出願商標には欺瞞性がなく、関連公衆の誤認を引き起こすこともないため、『中華人民共和国商標法』第10条第1項第(7)号の規定に違反していない。

 また、出願商標は指定商品において、普通の型番とは異なり、指定商品に使用されることで商品出所を識別する機能がある。なおかつ、出願人より提出された証拠は、出願人が出願商標を「塗装機」などの商品にて大量の宣伝・使用を行ったことを証明することができ、出願人と安定した対応関係ができ、出願商標の識別力を有するようになった。上記を踏まえ、初歩査定を与える。

 よって、「商標法」第28条の関連規定に基づき、出願商標が不服審判における商品においてその初歩査定の関連手続きをする。
 
■IP FORWARD によるコメント
 
 型番と官庁から認定された商標の登録が、拒絶査定不服審判で拒絶査定を覆すのは難しいことが一般的です。しかし、本件の出願者は、拒絶査定不服審判における不利な結果に対して、引き続き行政訴訟を行い、行政訴訟において、塗装機における使用証拠を大量に提出することにより、官庁から「大量の使用を経て識別力を有すること」を認められ、型番誤認の可能性が解消されました。最終的に初歩査定を与えられました。

 上記のように、型番のような商標を出願するときは、重要な商標であるため、拒絶査定不服審判のみならず、大量な使用証拠を収集したうえで、行政訴訟でさらに争う心構えが必要となります。行政訴訟の段階や、裁判所が考慮する要素が不服審判の段階よりも総合的であるため、その登録可能性は上がると思われます。
 
<事例4:第30484064号商標「VMSERA 5」の拒絶査定不服審判>
 
■案件概要
 
◆出願商標

◆国家知識産権局による拒絶理由
 
 当該商標は、指定商品に使用すると、識別力に欠けており、品質特徴への欺瞞性があるため、商標として登録できないので、商標法第11条第3項、第10条第1項第(7)号の規定に従い、拒絶査定を下す。
 
◆拒絶査定不服審判での認定
 
 商標出願人が当局の拒絶査定に不服があり、拒絶査定不服審判を申請した。当局はその請求を受理し、現在、審理を終えている。

 出願人から提出された証拠からみれば、出願商標は英語の「VM」、「Sera」および数字の「5」からなり、この標識を化粧品、美容マスクなどの商品に使用される場合、関連する公衆に商品の品質、原料などの特徴を誤認させにくく、「商標法」第10条第1項第(7)号の規定に違反していない。この表示は指定された商品に使用され、商標のあるべき顕著な特徴を有し、「商標法」第11条第1項第(3)号の規定に違反していない。

 よって、「商標法」第28条の関連規定に基づき、出願商標が不服審判における商品にて初歩査定を与えるものとする。
 
■IP FORWARDによるコメント
 
 本件商標は、アルファベット部分+数字部分の組み合わせ商標となり、一見「型番」のように思われます。しかし、本件のアルファベット部分にはアルファベットの個数が多いため、一定程度の識別力があると思われます。また、商標全体からみれば、視覚の焦点はアルファベット部分に集中されやすいため、商標の主要識別部分に該当します。数字部分が主要部分を修飾する補助的な部分となり、このような場合、消費者は商標全体を一つのロゴとして認識しやすく、消費者の混同・誤認が起こる可能性もそれとともに下がる傾向があります。

 上記を踏まえ、「型番」であると思われるような商標を出願する際に、できるだけ数字部分の存在感を弱め、アルファベット部分を長くする工夫を行ったうえで出願することが考えられます。


担当:IP FORWARD法律特許事務所
中国商標代理人 戴 元

戴 元/Dai Yuan

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