コラム

ベトナム 改正知的財産権法の細則を定める政令第65/2023/ND-CP号の施行

1、はじめに


 2023年8月23日、ベトナム政府は、2022年に改正され2023年1月1日に施行された2022年ベトナム知的財権産(IP)法の細則・ガイドラインとして、政令第 65/2023/ND-CP 号(以下「政令第65号」)を公布し、即日施行した。


 本記事では、この政令第65号の概要について解説する。


2、主なポイント


 政令第65号における規定内容は多岐にわたる。権利化の関係では、ベトナムへの第1国出願義務が及ぶ範囲の明確化や分割出願の手続きなどについて規定されている。


 一方で、エンフォースメントについても重要な内容が含まれている。本記事では、エンフォースメントに関する主要な4点のポイントについて述べる。


①インターネット上で行われた侵害行為(72条以下)
 政令第65号は、ベトナムにおける侵害行為とみなされるインターネット上の行為の定義をより具体的に規定した。

 同政令72条4項では、以下のいずれかの場合には、インターネット上で行われた侵害行為が、ベトナムにおける侵害行為とみなされると定めた。
 
 (a) ベトナムのドメイン名を使用して行われた場合
 (b) ベトナム語を主要な表示言語として使用した場合
 (c) ベトナムの消費者やユーザーに向けられた場合
 
 インターネット上の侵害行為については、ベトナム国内で完結しない場合(サーバーが国外にある場合など)もあるところ、上記規定により侵害行為の範囲が明確化されたことになる。


②損害額算定根拠の明確化(82条以下)


 政令第65号は、知的財産権侵害の場合に認められる損害賠償(財産的損害、精神的損害、逸失利益等)について、その損害の算定根拠を明確化した。


 例えば、政令第65号の第82条では、知的財産権法第 204 条に規定される産業財産権及び植物品種権の侵害行為による損害とは、権利者に対する直接的な侵害行為から生じる実際の物理的・精神的損害を指すとし、次の条件をすべて満たした場合に、当該損害が生じたものとみなすと定めた。
 
(a)物理的又は精神的な利益が現実のものであり、損害を受けた者に帰属すること。
(b)損害を受けた者が上記の(a)号で指定された利益を達成可能であること。
(c)侵害の結果、被侵害者の利益が、侵害がなかった場合にそのような利益を得ることができた能力と比較して、減少又は損失し、侵害行為自体がこの損失/損害の原因であること。


 財産的損失、精神的損失、収入及び利益の減少、事業機会の喪失はについて、同政令の第83条から第87条までの規定にその詳細が定められている。


③知的財産権侵害品の処理(96条)


 摘発時などにおける知的財産権侵害品の処理(破棄、没収など)について、これまでは当局の裁量とされていたところ、政令第65号では、権利者においても、適切な行政措置を適用するために、製造業者の流通経路を通じて持ち込まれた商品を強制的に回収するよう当局に要請する権利が付与された。


 本規定により、権利者として行政当局に対して、模倣品の処理を明確に要求できることになり、権利者にとって歓迎すべき内容といえる。


④税関による裁量の差し止め(103条)


 これまで税関における水際措置において、裁量による差止めが行われるかについては、法令上明確ではない点があった。この点、政令第65号では、税関において、侵害を証明する明確な証拠がある場合に限り、商標又は地理的表示の偽造が疑われる商品の税関手続きを一時停止する決定を下す裁量権を有することが明確化された。本条に基づき税関が差し止めを行った場合、速やかに権利者にその情報が通知されることになる。


 なお、当該税関手続の一時停止期間は、税関が権利者に通知した日から10日を超えてはならないとされている。


 本規則の内容は、税関による裁量の侵害品差し止めが明確されたものであり、権利者にとって歓迎すべき規定といえるが、一方で、実務上税関による差止めはまだ不十分な点も多く、差止め実務自体の改善が求められる。

3、結語


 政令第65号では、権利化からエンフォースメントまで、改正知的財産権法の内容を具体化する重要な内容が含まれている。これから同政令に基づく実務が具体化していくことが予想され、その動向が注目される。


著者情報

IP FORWARD 法律特許事務所

日本国弁護士・弁理士 鷹野亨


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