コラム

中国ダブルカーボン関連の政策動向

1、「ダブルカーボン1+N」政策概要


 中国では、多くの改革計画は「1+N」の形式が導入されている。これは中国政府が重要な政策を策定する際の一般的な手法である。「1」とは、全体的な指針や意見を指し、グランドデザインである。「N」とは、その総合指針に従い、制定された具体的な政策計画である。例えば、分野と地方ごとなどの政策は「N」に該当する。カーボンピークアウトとカーボンニュートラル、いわゆるダブルカーボンに関する政策も同じく「1+N」形式が採用されている。まず、グランドデザイン、つまり1政策を制定して、その全体的な目標と基本原則を明確にする。全体の枠組みを確立した後、各分野と関連の支援保障と地方などの政策を作り、完全な政策体系が構築される。


2、グランドデザイン政策


 2021に公表された「新発展理念の完全かつ正確な実施とカーボンピークアウト・カーボンニュートラルの作業に関する意見」(以下、意見という)と「カーボンピークアウト行動計画」はダブルカーボン分野のグランドデザイン政策になる。まず「意見」は中国政府がカーボンピークアウトとカーボンニュートラルを達成するための全体的な配置とグランドデザインとして、下記の主要目標が定められた。


主要目標

2025年まで、GDPの単位当たりのエネルギー消費量は2020年より13.5%減少、GDPの単位あたりの二酸化炭素排出量は2020年より18%減少、非化石エネルギーの消費比例は全体の20%に達するなど

2030年まで、 GDPの単位あたりの二酸化炭素排出量は2005年より65%以上減少、非化石エネルギーの消費比例は全体の25%に達する、風力、太陽光発電機の総容量は12億キロワットなど

2060年まで、非化石エネルギーの消費比例は全体の80%以上に達し、カーボンニュートラルを達成する


 もう1つのグランドデザインについて、「2030年カーボンピークアウト行動計画」(以降計画と略す)は「意見」と比べると、「意見」がカーボンピークアウトとカーボンニュートラルという2つの段階が含まれている一方、「計画」は主にカーボンピークアウトに焦点をあて、カーボンピークアウトを達成するための10の行動を提出した。


主要目標

“十四五”期間
・2025年まで、非化石エネルギーの消費比例は20%に達し、GDPの単位当たりのエネルギー消費量は2020年より13.5%減少、GDPの単位あたりの二酸化炭素排出量は2020年より18%減少する

“十五五”期間
・2030年まで、 GDPの単位あたりの二酸化炭素排出量は2005年より65%以上減少、非化石エネルギーの消費比例は全体の25%に達する


3、分野・産業別政策


 分野・産業別政策はN政策に該当して、内容と数は非常に多いため、今回は、幾つか重点業界のカーボンピークアウト実施計画という政策群をリストアップして、その最新動向をまとめていく。

公表先

日時 

政策名

概要

工業と情報化部など

2022/8            

「工業分野カーボンピークアウト実施計画」

鉄鋼、建築材料、石油化学工業、非鉄金属業界などの重点業界のカーボンピークアウト実施計画を制定、日常消費財、装備製造、電子などの業界の発展ロードマップを研究、各業界の状況に応じ、段階的に二酸化炭素の排出量を減少・コントロールする

住宅と都市農村建設部など

2022/6

「都市農村建設分野カーボンピークアウト実施計画」

・重点任務
①栽培業省エネ・排出削減 ②畜産業排出削減 ③漁業排出削減・カーボンシンク増加 ④田んぼ炭素隔離容量拡大 ⑤農業機械省エネ・排出削減 ⑥再生可能エネルギーの使

生態環境部など

2022/6

「汚染減少炭素排出削減協同効果増加実施計画」

重点任務
・源から予防抑制措置の強化

工業と情報化部など

2022/11      

「非鉄金属業界カーボンピークアウト実施計画」

重点任務
・製錬業界の生産能力の最適化
・産業構造の最適化
・新技術よる省エネ・炭素排出削減の強化
・清潔エネルギーの代替使用の推進
・グリーン製造体系の建設

工業と情報化部など

2022/11    

「建築材料業界カーボンピークアウト実施計画」

重点任務
・数量管理の強化
・原材料の代替の推進
・エネルギー転換
・技術イノベーションの加速


 重点業界の動向として、まず電力に関して、ダブルカーボンを実現するために、電力システムの改革は、最も重要と言っても過言ではないほど重要な業界である。2021年に石炭による発電量は中国全体の60%を占める。現状として、石炭発電は今後の長い期間において、中国の電力供給安全を保障するのに、重要な役割を果たし続けるのであろう。従って、電力業界の低炭素転換の流れの中、石炭発電は、「新規生産能力拡大の建設計画を厳禁」、「省エネ炭素削減改造の加速」と「新エネルギー発電との融合発展」という3つの方向に沿って、徐々に改革されていくと予想される。


 次は建築に関して、中国における建築全プロセスの炭素排出量は、社会全体の50.6%を占めて、うち、建築材料生産段階は28%、建築施工段階は1%、建築運用段階は21.6%となっている。建築業界も「ダブルカーボン」目標を達成するための重要分野である。2021年10月に公表された「建築省エネと再生可能エネルギー利用の汎用規範」は国家強制標準として、技術革新と新技術の応用を促すため、炭素排出量算定の細分化指標が入れ込まれた。「“十四五”建築省エネとグリーン建築発展計画の通知」の公表により、建築業界のグリーン省エネ指標が細分化され、正式に実施するとなった。


 最後は鉄鋼に関して、中国鉄鋼業界の炭素排出量は全国の15%を占め、世界鉄鋼業界の炭素排出量の60%以上を占めている。国内外においても、鉄鋼業界ダブルカーボンを達成するための最重要業界の1つである。鉄鋼企業のアップグレードを促進するには、短いプロセス製鋼の比例を上げることが一番の近道であるが、高コストが電気炉鋼の発展を制限する最も重要な要因であり、その結果、中国の電気炉鋼生産量は全体のわざか10%しか占めていない。そのため、政府は支援政策を打ち出し、2025年まで電気炉鋼生産量の比例を15%以上に上げることを決定した。


 ダブルカーボンの政策体系には、グランドデザイン政策と分野・産業別政策以外、技術面、財政面、標準化、意識改革、教育などの側面から、ダブルカーボンの実現をサポートする支援保障政策と、各地方政府は、2つのグランドデザイン及び分野・産業別政策に沿って、作られた各地方に適した地方政策もある。そして、近年の政策傾向として、中国のダブルカーボンにおいて、過激な改革を避けて、経済成長とエネルギーの安全供給を両立させながら、漸進的な改革が望ましいということである。ここの数年、中米の貿易戦争とか、ウクライナ情勢がエネルギー供給に対する影響とか、あとはコロナの影響で、中国経済の成長は以前と比べてかなり減速した。加えて、鉄鋼と火力発電は国民経済に占める割合も大きくて、過激な改革は経済に大きいな負担をあたえる恐れがあるため、漸進的、段階的な改革は、中国の状況に合う進め方という。ただし、漸進的な改革と言っても、全体の達成期限と数値目標は依然変わらない中、今後は中国経済の回復につれて、政府は一層力を入れることを推測するため、中国に事業を展開されている関連業界の日系企業にとって、この辺の動向は要注意である。それから、評価指標の転換について、省エネ炭素排出削減について、今までの評価指標は、エネルギーの消費量及びその強度であった。その評価方法には、1つの欠点がある。つまり、クリーンエネルギーと非クリーンエネルギーを区別しないということである。水力、風力、太陽光などのクリーンエネルギーは中国の西部地方では比較的に豊富で、クリーンエネルギー、特に再生可能エネルギーを使用する場合、二酸化炭素の排出は発生しないため、クリーンエネルギーを含めたエネルギー消費量及び強度という評価指標の精度が低いとされている。従って、2023年7月に政府は「エネルギー消費総量と強度から、炭素排出総量と強度へと転換するに関する意見」を公表して、評価指標を炭素排出量とその強度に変える動きがこれから本格的に始まると考えられる。評価指標が変われると、企業の対応の仕方も変わるため、その動向を常にチェックすることを推奨する。


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