コラム

中国コンテンツ市場コラム-第4回 AIは映像業界のビジネスモデルを揺るがしたのか?IP派生ビジネスが「救いの一手」に

大手映画会社を二分するAI対応

2026年の年明け、中国の映像業界はやや不透明な状況にあります。なぜなら「博納影業(Bona)」や「歓瑞世紀(Huanrui Century)」といった従来型の映像制作会社が相次いで業績の下方修正を発表し、誌面には「赤字」や「減益」といった言葉が並んでいるからです。しかしその一方で、「万達電影(Wanda)」や「光線伝媒(Enlight)」は、まったく対照的な好業績の見通しを示しています。

万達電影は2025年に純利益が黒字に転換し、4.8億〜5.5億元(約110億〜126億円)に達する見込みです。光線伝媒の成長はさらに顕著で、純利益が前年同期比413%〜550%増となり、15億〜19億元(約345億〜437億円)に達すると予想されています。

光線伝媒はIRにおいて、『哪吒之魔童鬧海(邦題:ナタ 魔童の大暴れ)』などの映画興行収入の好調に加え、「関連するIP運営事業が収益および利益に大きく寄与した」と明言しています。IP(知的財産)がいかに同社にとって重要な戦略であるかを改めて強調する形となりました。

 映像業界の新たな成長ドライバーは「IPの商業化・マネタイズ」です。そして業績二極化の背景には、AIによる業界変革という大きな波が影響しています。易凱資本の王冉氏は、先日開催された業界カンファレンス「CDC2026」において、AIはブルドーザーのように、コンテンツ業界を二分している」と指摘しました。つまり、一方にはAIで大量生産される平凡なコンテンツがあり、もう一方には高いクオリティを誇るシリーズ型の有力IPが存在するという構図です。

虎鯨文娯(旧アリババ・ピクチャーズ)のトップである樊路遠氏も、3月に社内向けに「AIを積極的に取り入れ、エコシステムの融合を加速する」と表明しました。「映画部門の解散」の報道で注目を集めた華策影視(Zhejiang Huace)も、取締役会秘書が「映画事業部は存続する。今後はプロジェクト選定をより慎重に行い、AIなどの技術活用を一層強化していく」とコメントしています。

ほとんどのプレイヤーがこうした変革のプレッシャーを受ける中、直近で決算を発表した檸萌影業(Linmon)は、中堅コンテンツ企業として目覚ましい成果を上げています。本稿ではこれを起点に、他のコンテンツ企業や動画プラットフォームの動向も併せて観察しながら、コンテンツ企業はいかにして時代の変化に適応すべきかを考察していきます。

「人を核とし、IPを錨とし、AIを翼とする」制作会社に留まるリスク

檸萌影業は、AIIPを積極的に取り入れ、派生ビジネスを強化した結果、IP派生事業で前年比610%という大幅な成長を記録しました。2025年の総収入は8.6億元(約200億円)となり、前年同期比で31.3%増加。調整後純利益は前年度の1.84億元の赤字から一転し、3,379万元(約7.8億円)の黒字転換を達成しています。

数字はすべて日本円で億円、1=23円で計算

より注目すべきはその収益構成です。同社は「長編ドラマ」「短編ドラマ」「ドラマ派生(IP派生)」「その他」という4つの事業セグメントを展開し、それぞれが異なる形で成長に寄与しています。

中でもIP派生事業の収入は、2024年の約142万元(約3,300万円)から、2025年には1,006万元(約2.3億円)へと急増し、前年比で実に610%という大幅な伸びを記録しました。1,000万元規模(2.3億円)という絶対額は、同社の数億元に及ぶ総売上と比較すれば、まだ大きいとは言えないかもしれません。しかし、6倍を超える成長スピードは、明らかに爆発的なトレンドの兆しを示していると言えるでしょう。

では、この成長はどこから生まれているのでしょうか。同社は、代表的な事例として『書巻一夢(A Dream within a Dream)』と『子夜帰(Moonlit Reunion)』の2作品を挙げています。

『書巻一夢(A Dream within a Dream)』

『子夜帰(Moonlit Reunion)』

両作品のIP派生商品は、トレーディングカードやぬいぐるみといった定番カテゴリにとどまらず、さらにはアクセサリーやアパレルにまで展開されています。ドラマが持つ文化的シンボルを、独立した価値を持つ「文創商品(文化クリエイティブ商品)」へと転換し、日常生活のシーンへと浸透させることに成功しました。中でも『書巻一夢』の派生商品は、2025年のドラマIP派生商品売上ランキングにおいて、常に上位グループを維持しており、高い市場評価を獲得しています。

 また、開発モデルにも重要な変化が見られます。例えば、『十日終焉(Ten Day Ultimatum)』といった大型サスペンスIPの開発において、檸萌影業は「フロントローディング(前倒し開発)」戦略を明確に採用し、作品の放送前から関連グッズを市場投入し、コンテンツ公開と同時に商業化を最大化する体制を整えています。

同時に、同社は事業報告書の中で、AI技術を変革の「翼」として明確に位置付けています。同社の戦略は「人を核とし、IPを錨(アンカー)とし、AIを翼とする」というものであり、コンテンツの企画、制作、さらには派生開発に至るまで、バリューチェーン全体にAIを組み込むことを目指しています。

例えば、『書巻一夢』ではAIを活用した脚本評価やユーザーインサイト分析が行われており、ショートドラマ領域においてもAIによるコンテンツ生成の効率化が進められています。AIによって効率を高めコストを抑制し、その分のリソースをIPそのものの創出と運営に集中させる戦略です。

こうした動きを踏まえると、業績を大きく伸ばしている光線伝媒や万達電影、そして変革を進める檸萌影業のいずれもが共通して認識している点が見えてきます。それは、AIのインパクトと業界の二極化が進む中で、「制作・配給会社」にとどまるだけではリスクが高すぎるということです。今後は、IP資産を体系的に構築し、AIや派生商品などあらゆる手段を活用してIPのライフサイクルを延長し、マネタイズの接点を拡張できる企業こそが、生き残るだけでなく、逆風下でも成長を実現できると考えられます。

グッズ市場は成長期から大資本による整理統合期へ

IP派生ビジネスの競争領域は拡大を続けている一方で、「グッズ(いわゆる「谷子」)ビジネス」も容易ではなくなりつつあります。檸萌影業に限らず、コンテンツ業界の各プレイヤーは出自を問わず、「いかにIPのロングテールを伸ばし、グッズビジネスを拡大するか」という一点に焦点を当て始めています。

しかしグッズ市場において数年前におきていた“ゴールドラッシュ”の状態は、すでに過ぎました。その一つの象徴的な動きが、ゲーム会社の電魂網絡(Electronic Soul)による投資です。同社は329日、約4,920万元(約11億円)を投じて、二次元IP派生商品企業である上海漫魂(Comic Soul)の51%の株式を取得したと発表しました。電魂網絡は公告の中で、「二次元IP派生商品という国家重点育成分野へ迅速に参入し、『ゲーム+IP派生商品』の両輪駆動モデルを構築する」と明言しています。

このディールは業界内で「“グッズ”領域における第一号案件」とも称されており、同時にグッズ市場の構造変化を象徴する出来事でもあります。雷報によれば、ここ2年ほどでオフラインのグッズショップは競争過多となりすぎ、小規模事業者や個人セラーは「参入は早いが、撤退も早い」状況にあります。

電魂網絡自体も主力であるゲーム事業の成長が鈍化する中で、今回、オフラインチェーンブランドである上海漫魂を買収したことは、新たな成長ストーリーを模索する動きであると同時に、グッズ市場が初期の旺盛な成長段階から、大資本主導による戦略投資・再編フェーズへと移行したことを示しています。

言い換えれば、下流の派生商品市場もまた、淘汰と再編の局面に入っているということです。これは、コンテンツ企業が単に「グッズ販売」に依存するだけでは生き残ることが難しくなっていることを意味しており、成功にはより体系的かつ精緻な戦略が不可欠となっています。

その一例が、チケット販売およびプロモーションを主軸とする猫眼娯楽(Maoyan Entertainment)です。同社の2025年の純利益は前年比209%増となり、IP派生事業を戦略の柱に据えています。この期間に、猫眼は14本のアニメ映画と提携し、『羅小黒戦記2』のテーマ型体験空間や、『鬼滅の刃』の没入型イベントを展開するなど、IP運営と宣伝・配給を一体化させる取り組みを進めています。

さらに、自社IP「胡胡(フーフー)」(映画『熊猫計画(邦題:パンダプラン)』に登場するキャラクター)の開発にも着手し、2026年上半期には北京でIPテーマ型新小売フラッグシップ店舗「MmmGoods吃谷子」の開設を計画しています。また特筆すべきは、猫眼娯楽と主要株主であり長期的パートナーでもある光線伝媒が、2026326日にIP派生事業に関する新たな協業フレームワーク契約を締結した点です。映像業界の主要プレイヤーは、単独での取り組みから脱却し、より体系的かつグループ戦略としてIP派生市場へ本格参入する段階へと移行しつつあります。

中国版「なろう」の閲文集団、1700億円売上にグッズ250億・AIマンガ20

一方で、膨大なネット小説IPを保有する閲文集団(Tencent傘下のChina Literature)は、「IP価値」のもう一つの開発モデルを示しています。同社は2025年の総売上こそ減少したものの、IP派生商品およびAIマンガ・ショートアニメといった新興事業は大きく成長しています。IP派生商品のGMV(総商品売上)は11億元(250億円)を突破し、2024年の2倍以上に拡大し、AIマンガ関連事業の売上も1億元(23億円)を超えました。

AIツールの活用により、テキストからマンガ、さらにはモーションコミックといったコンテンツへの転換にかかるコストと時間を大幅に削減することが可能となり、同社が保有する数百万規模のネット小説IPを、迅速に消費可能なコンテンツへと変換できるようになっています。つまり、より低コストかつ高効率で、自社が抱える膨大なIP資産の価値を最大限に引き出すモデルが確立されつつあると言えるでしょう。「グッズ経済」と「IP×AI」による軽量化モデルの両輪が、閲文集団にとって第二の成長曲線を切り開く鍵となっています。

売上73億元(1700億円)の閲文集団でもIP派生で11億元(250億円)、AIマンガで1億元(23億円)を稼ぐようになっている

『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』で10億円超のIP収入

中文在線(COL Group)の選択は、IP資産の価値をより鮮明に示しています。経営環境が厳しい企業にとって、すでに市場で成功が実証されたIPと、その運営能力こそが、最も重要なコア資産であり、変革への最大の希望となります。同社は今年2月、香港取引所への上場申請を行い、「AH」二元資本市場の構築を目指しています。

IRによれば、業績プレッシャーに直面する中、中文在線は2023年に『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』IPの運営会社である寒木春華(HMCH)の51%株式を取得しました。2025年には『羅小黒戦記2』が興収5億元超(12億円)、レビューサイトで高評価(8.7点)を記録し、その関連グッズもPOP MARTや名創優品とのコラボ商品が発売直後に完売するなど、高い商業的成功を収めています。

2025年の最初の9か月間において、「羅小黒」IPは中文在線に5,360万元(12億円)の収益をもたらしており、IP資産の収益化ポテンシャルの高さを改めて証明しています。「羅小黒戦記」IPの派生商品開発は、中文在線が単独で進められているわけではありません。IP運営会社である寒木春華は、猫眼娯楽と連携し、『羅小黒戦記2』のプロモーションおよび派生商品開発において深い協業を行っています。前述の通り、猫眼は同作品のためにテーマ型の体験空間(いわゆる「痛園」)も展開しています。

このような協業モデルは、今後のIP派生商品開発における一つの主流パターンを示している可能性があります。すなわち、IP権利者、コンテンツ制作会社、そしてチャネル運営側がそれぞれの役割を担い、連携しながらIP派生商品市場の価値を最大化していくという構造です。

・出典:中文在線 提出の目論見書より抜粋

競争のフィールドは、なお拡大を続けています。コンテンツの主要な出口でありトラフィックの集積地でもある動画プラットフォームは、もはや単なるIPライセンス収益に依存する「仲介者」にとどまることに満足していません。例えば、愛奇藝(iQIYI)は、IP消費財ビジネスを従来の単一的なライセンスモデルから、「自社運営+ライセンス」の並行モデルへと転換しようとしています。同社が新たに設立した「体験事業部(EBI)」では、IP派生商品と「愛奇藝楽園」(没入型屋内テーマパーク)の2領域に重点的に取り組んでいます。

202628日には、「愛奇藝楽園」のグローバル1号店となる揚州店が正式にオープンしました。さらに328日には、武漢城建集団と愛奇藝が提携契約を締結し、華中エリア初となる「愛奇藝楽園」が武漢に進出することが発表されています。

  同様に、騰訊視頻(Tencent Video)は2026年の戦略において、IPの長期運営およびエコシステム構築を繰り返し強調しています。同社のアニメIPである『詭秘之主(Lord of Mysteries)』、『斬神(ザンシン)』、『剣来(けんらい)』、『仙逆(せんぎゃく)』、『斗羅大陸(トラタイリク)』などは、グッズ展開、ゲームとの連動、オフラインイベントを通じて、包括的な商業化が進められています。

また、哔哩哔哩(Bilibili)は2025年に初めて通期黒字化を達成しました。同社が公開した「2025IP共同運営およびライセンス総括」によれば、年間で460件以上のIPコラボレーションを実施し、150以上のIP290以上のブランドをカバー、関連商品の売上は13億元(300億円)を突破しています。具体的な事例としては、『凡人修仙伝』の関連グッズがクラウドファンディングで4,025万元(約9.2億円)を超える資金調達を達成し、記録を更新しました。また、『時光代理人(LINK CLICK)』は全国複数都市でオフライン音楽ツアーを開催し、チケットはすべて完売するなど、IPの多角的なマネタイズが実現されています。

総じて見ると、このIP派生ビジネスをめぐる競争は、参入プレイヤーが増加し、その手法もますます高度化・多層化しています。猫眼娯楽や光線伝媒にとっては産業チェーンの垂直統合であり、閲文集団にとっては技術主導のIPマネタイズ、中文在線にとっては再生の切り札とも言える戦略です。さらに、優酷・愛奇藝・騰訊視頻・哔哩哔哩といった主要プラットフォームにとっては、「コンテンツ+消費」を軸としたIPビジネスのクローズドループ構築とユーザーエンゲージメント強化のための中核戦略となっています。

一方で、電魂網絡による上海漫魂の買収事例が示すように、下流の派生商品小売市場自体もすでに再編フェーズに突入しています。熱狂の時代は終わり、今後はIPの持続力、プロダクトの革新性、そして運営の精緻さが勝敗を分ける要因となります。

こうした状況下では、「グッズビジネス」そのものが容易ではなくなっている以上、コンテンツ企業の変革はより長期的な視点で捉える必要があります。単発のヒット商品を生み出すだけではもはや不十分であり、いかに持続可能なIP運営体系を構築できるかこそが、今後注力すべき新たな基盤(ニューインフラ)であると言えるでしょう。

コラム記載者紹介

IP FORWARD顧問:中山淳雄

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