コラム

中国ゲーム市場の今後の展望

はじめに

 2024年、中国の全てのゲームを含めた場合の市場規模は、3,257.83億元(約6兆7千万円)となり、コンシューマーゲーム市場だけでも、その規模は55.13%増加し、44.88億元(約923億円)に達しました。この巨大な市場は、モバイルゲームを中心に、eスポーツ、AAAタイトルなど、多角的な発展を遂げています。本コラムでは、中国ゲーム市場の現状と今後の展望を分析し、日系企業の中国進出における経営戦略に役立つ情報を提供します。

中国ゲーム市場の概況

 中国のゲーム市場は、モバイルゲームが中心となっています。2024年のデータによると、モバイルゲームが市場全体の売上の約73.12%を占めており、コンシューマー/PCゲーム、ブラウザゲーム、その他のゲームで残りのシェアを分け合っています。

 モバイルゲームの市場売上トップ100のゲームを分類すると、『League of Legends』や『Dota2』などを代表としたマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(通称:MOBA)が17.99%、『原神』や『崩壊:スターレイル』などを代表としたRPGが17.85%、PUBGなどを代表としたファストパーソンシューティングゲーム(通称:FPS)が13.89%と、この3ジャンルだけで約50%を占めています。

 一方で、リリースされたゲームの市場売上トップ100の全体の割合で見ると、MOBAが3%、FPSが5%となっており、これら2つの中国での収益性の高さが窺えます。

2024年中国ゲーム産業市場比率[1]

2024年モバイルゲーム売上TOP100におけるジャンル別売上比率

2024年モバイルゲーム売上TOP100におけるジャンル比率

 中国のゲーム市場は、単に規模が大きいだけではなく、緩やかにではありますが、成長傾向を維持しています。2023年の市場の成長率は13.95%であり、2024年は7.53%となっています。

 また、中国政府は2023年12月にオンラインゲームに関するパブリックコメント(意見公募)を実施すべく、規制案を発表しました[2]。しかし、撤回の理由は明かされていませんが、1か月で白紙撤回をしました。

 この規制案には、「色情、賭博、暴力、犯罪教唆の禁止」「恐怖、残酷描写の禁止」など、現状でリリースされているゲームに対しても影響を及ぼす文言が含まれており、かつ、前述の通り市場規模が巨大なため、白紙撤回をしたものと予想されます。これは中国のゲーム産業の強靭さを示しています。

中国モバイルゲーム企業の市場近況

 2024年全世界モバイルゲーム・ゲーム別売上ランキングによると、『オナー・オブ・キングス』が18億ドルで第1位、『PUBG MOBILE』が11億ドルで第5位、『アラド戦記モバイル』が7億ドルで9位となっており、いずれも中国のパブリッシャー企業であるテンセントがリリースしています。

 また、11億ドルで6位の『ラストウォー:サバイバル』をリリースしているファンフライや、9億ドルで第8位の『ホワイトアウト・サバイバル』をリリースしているセンチュリーゲームズも中国のデベロッパー企業です。トップ10中5つのゲームが中国企業であり、その存在感を示しています。

2024年モバイルゲーム売上TOP10[3]

eスポーツの隆盛

 中国のeスポーツ市場は、世界をリードする存在です。2024年、中国音像与数字出版協会電子競技工作委員会が発表した『2024年中国電子競技産業報国』によると、中国のeスポーツ市場規模は275.86億元(約5,705億円)に達し、競技者人口も中国国内だけで490万人と、世界最大の市場となっています。

 前述の通り、市場規模が大きなジャンルでは、MOBAが17.99%、FPSが13.89%とジャンルの中で見ると高い比率を誇っていますが、競技としてのジャンルではFPSが26.1%、MOBAが15.2%と、FPSが頭一つ飛びぬけています。その理由としては、他のゲームに比べて、高い戦略性、反射神経、チームワークが求められる点にあり、かつ、観戦者にもわかりやすい内容であるからと言えます。また、チームプレイが重要なため、コミュニケーションや協力が不可欠で、これがeスポーツのチーム競技としての価値を高めています。

中国eスポーツ市場の売上グラフ[4]

eスポーツのゲームジャンル比率

 2023年には、中国浙江省杭州市において、「杭州第19回アジアスポーツ大会」が開催されました。本大会では、eスポーツが正式種目として採用され、中国チームが金メダルを4枚獲得しました。これは、eスポーツが中国において社会的に認知され、重要なエンターテインメントとして位置づけられていることを表しています。

 このほかにも、JD(京東)は自社のeスポーツチーム『JD Gaming』を設立し、アリババグループはeスポーツ大会である「World Electronic Sports Games」を運営するなど、積極的に投資しており、この分野での中国の存在感は今後もさらに高まることが予想されます。

中国発AAAタイトルの近況

 中国のゲーム産業は、これまでモバイルゲームが中心でしたが、近年では高品質なAAAタイトルの開発にも力を入れています。その代表例が、『黒神話:悟空』(Black Myth: Wukong)です。

 このゲームは、中国の古典文学『西遊記』をベースにしたアクションRPGで、Unreal Engine 5を使用した圧倒的なグラフィックスが話題を呼んでいます。

 『黒神話:悟空』は、2023年に公開されたトレーラーが世界的に大きな反響を呼び、そのクオリティの高さから中国初の本格的なAAAタイトルとして中国において爆発的な人気を獲得しました。

 一方で、『黒神話:悟空』のレビュー数の割合を調査したところ、中国語(簡体字)によるレビューが88.84%(レビュー数1,011,181)を占めていますが、英語でのレビューは6.43%(レビュー数73,173)でした。比較対象として、直近で発売された話題作『モンスターハンターワイルズ』を挙げると、英語のレビュー数は69,586と『黒神話:悟空』に肉迫する勢いですが、『黒神話:悟空』の発売日が2024年8月であることを踏まえると、中国国内での盛り上がりと中国国外での盛り上がりに温度差があるのが実情です。

 しかしながら、『黒神話:悟空』の英語レビューにおける肯定的なレビューの割合は全体の約94%であることから、プレイヤー満足度が高いゲームであることが窺えます。

『黒神話:悟空』(Black Myth: Wukong)レビュー数調査
(2024年8月20日リリース、2025年3月18日調査)

『モンスターハンターワイルズ』(Monster Hunter Wilds)レビュー数調査
(2025年2月28日リリース、2025年3月18日調査)

中国政府の規制について

 中国政府は、ゲーム依存症や青少年への悪影響を懸念し、規制強化の方針を打ち出しています。2021年8月、国家新聞出版署は、各省、自治区、直轄市の出版局、各オンラインゲーム企業、および関連業界団体に対し、未成年者のオンラインゲーム利用に関する厳格な規制を通知しました[5]。

 この通知では、未成年者に対する実名登録制度の導入やプレイ時間の制限が義務づけられました。具体的には、未成年者は金曜日、土曜日、日曜日、および法定休日の20時から21時までの1時間のみゲームをプレイできると規定され、それ以外の時間帯は一切ゲームを利用できません。これを受けて、ゲーム企業各社は未成年者の実名認証制度、およびプレイ時間を管理するシステムを導入し、規制への対応を進めました。

 また前述のとおり、2023年には、さらなる規制案がパブリックコメントにかけられるなど、中国政府は未成年者保護とゲーム産業の経済的影響とのバランスを模索している状況です。ゲーム産業は中国の重要な経済セクターである一方、青少年の健全な成長を守るための規制も強化されており、今後の政策動向の注目度が高まっています。

まとめ

 中国のゲーム市場は、依然としてモバイルゲームを中心とした市場規模を維持していますが、近年では『黒神話:悟空』のようなAAAタイトルが台頭してくるなど、中国のゲーム産業が新たな段階に突入したことを示しています。今後、中国発のコンシューマーゲームが国際市場で存在感をさらに増してくるようであれば、モバイルゲーム市場と併せて、中国のゲームが世界的なエンターテインメントとして認知されることでしょう。

 さらに、eスポーツ分野でも、中国は世界トップレベルの競技力を誇り、目覚ましい活躍を見せています。これらの動向は、中国のゲーム産業が単なる市場規模の拡大だけでなく、技術力や文化的影響力においても世界をリードしつつあることを示しています。今後、中国のゲームがグローバル市場でどのような進化を遂げるか、その動向が注目されます。
 
 
[1]出典:界面新聞 日付:2024年12月16日
https://www.jiemian.com/article/12125088.html
[2]出典:金羊網、国家新聞出版署 日付:2023年12月22日
https://news.ycwb.com/2023-12/22/content_52400116.htm
[3]出典:mobilegamer.biz 日付:2025年1月6日
https://mobilegamer.biz/the-top-grossing-mobile-games-of-2024/
[4] 出典:先導研報、中国音像与数字出版協会電子競技工作委員会 日付:2025年1月13日
https://www.xdyanbao.com/doc/9392a4j1ji?userid=57555079
[5] 出典:中華人民共和国中央人民政府 日付:2021年08月30日
https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2021-09/01/content_5634661.htm



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