コラム

中国における商標権侵害に基づく刑事摘発トピック〜模倣業者から賠償金を獲得する方法〜

 中国では、現在も多くの日本企業が模倣被害に遭っており、その被害を抑えるべく、権利者は中国における調査、摘発、民事訴訟などの措置について、多額の対策予算を投じている状況にあると思われる。通常、模倣対策(特に商標権侵害などの純粋ニセモノ商品対策)の主たる手段は摘発であることが多いので、どんなに重たい処罰が科されたとしても、権利者に模倣対策に投じた費用が償還されることはない。


 もっとも、模倣業者に対して民事訴訟を提起し、損害賠償を請求することにより、実質的に賠償金を得るので、模倣対策費用を償還することが可能である。近年、裁判所で認められる賠償金額も増額されてきているため、弊方でも多くの民事訴訟を対応してきましたが、やはり訴訟には1年程度の所要時間を要し、また、訴訟提起はそもそもハードルのある決断となるため、必ずしも、すべての商標権侵害案件・模倣業者に関して、民事訴訟を推奨できるとはならない。


 こうした背景のもとで、弊方では、民事訴訟以外の手段による模倣業者から賠償金を回収する対応も実施しており、特に刑事摘発を通じた賠償金支払いの交渉(以下、「賠償交渉」という)は効果的であると考えているので、今回はこの概要をご紹介したいと思う。


 商標権侵害の模倣品の製造・販売の案件規模が大きい場合、その模倣業者に対する刑事摘発が可能となるので、刑事摘発の過程の中で賠償交渉を実施すると、模倣業者から賠償金を取得できる可能性が相対的に高い。具体的には、刑事摘発の直後に、模倣業者の責任者は一時的に身柄拘束されることになるが、この間に、その責任者と個別に賠償交渉を行い、権利者から模倣業者に対して更なる民事訴訟を行わないことなどを引き換え条件として、賠償金の支払いを求める。


 双方合意できれば、通常は、権利者と模倣業者との間で賠償金支払いを合意する合意書を締結することが推奨される。同合意書では、賠償金支払いの他に、再犯した場合の違約金も明確にし、関連する模倣業者が大きい案件は、共犯者らにかかる情報の提供も要請することも考慮するべきである。


 一般的に、模倣業者の責任者が身柄確保中のタイミングは、色々とプレッシャーを受けている場面となるので、賠償交渉は成功しやすくなる傾向がある。刑事摘発は、①公安による摘発、②検察による取調べ、③裁判所による刑事裁判から、①のタイミングで賠償交渉すると、③の刑事裁判で多額な罰金を支払う前の段階なので、模倣業者も比較的に資金に余裕があることもあって、結果として、賠償交渉が成功しやすい傾向にある。


(参考)刑事摘発の流れ

段階

項目

期間

内容

公安

申立て

2ヶ月

申立人が管轄当局に対して、模倣業者に対する事前の調査結果を踏まえて申立書類を提出し、摘発の申立てを行う。

現場への立ち入り捜査

管轄当局が申立書類の審査を行い、刑事訴追基準を満たす可能性の有無を分析する。
可能性が高いと判断されれば、模倣業者への立ち入り捜査を行い、現場で証拠を発見次第、押収手続きを取り、当局に持ち帰る。
権利者が、押収した模倣品について真贋鑑定を行い、鑑定書、価格証明等の書類を発行する。

容疑者の身柄拘束・調査

管轄当局が、模倣業者(責任者)の身柄を拘束し、模倣品の販売価格、販売量、仕入・出荷等の情報について取り調べを行う。

検察

検察院の訴訟準備

2~
3ヶ月

検察に移送されたあと、検察院が補強証拠の収集や追加証明資料の準備を行う。
必要情報が全て揃った時点で、検察が模倣業者を起訴することになる。

裁判

刑事裁判

6~
8ヶ月

模倣業者に対する刑事裁判。検察と弁護人がそれぞれ提出する証拠に基づき、模倣業者への判決が出る。(参考)刑事摘発現場の様子


(参考)刑事摘発現場の様子


 弊方の過去の対応実績を踏まえると、刑事摘発で賠償交渉を実施した場合、実際に賠償金を獲得できた成功率は6~7割程度であり、模倣業者の資力が大きければ大きいほど成功しやすく、また、模倣業者も比較的高い確率で契約どおりに賠償金支払いを履行する傾向がある。賠償金の相場は一概には言えないが、BtoB業界の案件の方が相対的に高く、10~30万元程度、BtoC業界の案件の場合はやや低く、5~20万元程度の印象である。


(参考)弊方過去成功例

業界

時期
場所
獲得賠償金(約)

ゲーム

2019年
広東省
15万元
自動車部品
2019年
広東省
20万元
工業部品
2020年
山東省
30万元
食品
2020年
上海市

20万元

アパレル
2021年
山東省
5万元
工業部品
2021年
江蘇省
30万元


 上述のとおり、刑事摘発で模倣業者から賠償金を取得できる成功例が増えてきているので、刑事摘発の案件においては、必要に応じて、賠償交渉の是非も併せて検討すると良い。


 この点、権利者によっては、模倣業者から金銭を取得することに抵抗感を持たれることもあるが、模倣業者に金銭の支払いの義務を課すことで制裁にもなるので、賠償交渉の意義を認識していくべきであると思料する。


 但し、一つ注意点としては、事案によっては、賠償交渉をすることで、刑事裁判での処罰が軽くなり、結果、模倣業者に対する制裁という面で弱くなってしまう場合もあるので、たとえば、再犯のリスクが高い業者、悪質性の高い業者の処罰時には、賠償金獲得よりも各種処罰を与えることを優先するべきであることもあるので、結論として、ケースバイケースで、最適な対策を考えていくことも重要である。


著者情報

IP FORWARD China

模倣対策部 部長

陸 洋森

陸 洋森/Lu Yangsen


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