コラム

中国不正競争防止法および商標法による商品形態に対する保護

 1.    はじめに


 商品形態の保護について、中国では、その特徴により、不正競争防止法、商標法、著作権法、専利法上の保護を受けることが考えられます。本稿では、商品形態の出所識別機能に着目し、中国不正競争防止法および商標法による商品形態に対する保護を紹介したいと思います。


2.    中国不正競争防止法による商品形態に対する保護


(1)  保護要件


 中国不正競争防止法[1]において、商品形態が「一定の影響力を有する包装・装飾等」に該当する場合、同法の保護を受けることができます。この点、不正競争防止法の司法解釈及び司法実務により、商品形態が「一定の影響力を有する包装・装飾」として保護を受けるためには、以下の要件を満たす必要があるとされます[2]。
 
①    一定の市場著名度を有する(著名性要件)
②    商品の出所を区別する顕著な特徴を有する(顕著性要件)
③    商標法10条1項[3]で禁止される標章に該当しない
 
①の著名性要件は、通常、権利者の提出する商品の販売、宣伝に関する証拠に基づき、商品の販売期間・地域・売上高・対象及び宣伝の継続期間・程度・地域範囲、過去の権利行使状況を総合的に考慮したたうえで、その充足性が判断されます。著名性の証明について、通常、以下の証拠を収集することは考えられます。

カテゴリ​​​​​​​

証拠となる資料例7

販売関係


・販売契約、領収書、伝票、銀行送金記録等
・販売地域、販売ルート、販売方式等に係る資料
・第三者による商品売上等に関するランキング資


広告宣伝関係

・新聞、定期発行物、広告看板等の広告・宣伝活動に係る資料
・広告会社との契約書、発票、統計データ-、銀行送金記録等広告宣伝支出に係る資料

・出展写真、関連報道、主催者配布パンフレット等の展示会出展に係る資料
・契約書、発票、銀行送金記録等展示会参加支出に係る資料

権利執行関係

権利行使実績(行政処罰決定書、判決書、無効審判・異議申立決定書等)

第三者評価関係

(政府・取引先等による)受賞歴

その他第三者による報道、新聞、テレビ、ラジオの報道資料

※下線の部分は著名性を分かりやすく証する証拠資料です。


②の顕著性要件を満たすためには、原則として、商品形態が一般設計と区別するための一定の新規性、独特性を有し、かつ、商品の出所を区別できるものであることが要求されます。


 なお、商品形状のみからなる商品形態については、顕著性要件の判断において、以下の点についても留意する必要があります。


 機能性を有する商品形状は、顕著性要件を満たすことができない(非機能性要件)。「機能性を有する商品形状」とは、商品自体の性質によってのみ構成される形状、技術的な効果を得るために必要な商品形状及び商品の実質的な価値を持たせるための形状を含みます[4]。


 商品形状が「一定の影響力を有する包装・装飾」に該当するかの認定は、原則として、文字・図案類の場合より厳格に判断されます。その理由は、商品の形状は商品の本体と不可分であるため、関連消費者は、商品形状を商品の生産者や提供者と直接結びつける商品の出所を区別するためのものというよりは、商品本体の構成部分として認識しやすいからです[5]。


(2)  保護要件充足の場合の効果


 商品形態が不正競争防止法上の「一定の影響力を有する包装・装飾等」に該当すると認定される場合、その類似品を排除するための権利行使が可能です。具体的には、他人による類似品の無断製造・販売等の侵害行為について、侵害行為の差し止め、損賠賠償等に加え、行政罰(差し止め命令、過料、侵害品の没収・廃棄等)を科すように請求することは可能です。ただし、商品形態の類似品に関する不正競争防止法違反の法的判断が複雑であるため、実務上、行政摘発を通じて行政罰を請求することは少なく、民事訴訟を通じて差し止め、損害賠償等の民事責任を請求するのは多いです。


(3)  事例紹介


 以下は、一定の影響力を有する包装・装飾の肯定例、否定例をそれぞれ紹介し、著名性要件、顕著性要件の充足可能性の判断の参考に供したいと思います。


3.     中国商標法による商品形態に対する保護要件


(1)  保護要件


 商品形態を商標法で保護する方法として、立体商標として商標登録することが考えられます。商標法及び商標審査審理指南によれば、立体商標として商標登録するための要件は以下の通りです[9]。
 
(1)  顕著な特徴を有する(顕著性要件)
(2)  他人の先行権利(商標権、著作権等)に抵触しない
(3)  商標法10条[10]で禁止する標章に該当しない
(4)  悪意による商標出願ではない


 顕著性要件について、この要件に充足していない標識(商品形態を含む)が、使用により顕著な特徴を取得し、かつ、識別可能なものとなった場合、顕著性要件の充足性が認められることができます。また、この場合、提出する使用証拠は、不正競争防止法で保護を受ける場合の著名性証明資料とほぼ同様です(詳細は2022年8月号のトピックの記載をご参照ください)。


 また、商品形状のみからなる商品形態の立体商標の登録については、更に以下の点にも留意する必要があります。


 (5)商品形状について機能性を有さない要件(非機能性要件)も満たす必要がある。非機能性要件が求められる点は、不正競争防止法と同様ですが、不正競争防止法は非機能性要件を顕著性要件の判断要素の一つとして検討するのに対して、商標法では別個の要件として規定しています。

非機能性要件に充足していない商品形状例


 もし、商品形状が商品自体の性質によってのみ構成される形状、技術的な効果を得るために必要な商品形状、商品の実質的な価値を持たせるための形状のいずれかに該当する場合、機能性を有すると認定され、商標登録することはできません。


  商品形状が顕著性要件に該当するかの認定は、厳格に判断される。通常、関連消費者は、一般的に商品の形状を商品の出所を識別するための標章として認識しないため、商品形状の立体商標について顕著な特徴を有すると認めることは難しいとされます。また、たとえ商品形状に独創性があるとしても、当該標章は必然的に顕著な特徴を有するということにはなりません。このため、特に近年において商品形状が立体商標として登録された実例は少ないです。


 上述の通り、中国では、商品形状のみからなる商品形態が不正競争防止法、立体商標による保護を受けるためには顕著性及び非機能性の要件を満たす必要があるという点は同様ですが、実務上、商標法による保護を求める際に、これらの要件の充足性の審査が不正競争防止法より厳格に行われる傾向があります。


 例えば、クロックス社の「CROCS」靴、ヴァン クリーフ&アーペル社の「Alhambra」シリーズアクセサリーの商品形態は「一定の影響力を有する商品包装・装飾」として不正競争防止法による保護[12]を受けましたが、前者は立体商標の登録を拒否され、後者は登録後に顕著性がないことを理由に無効となっています[13]。


(2)  保護要件充足の場合の効果


 商品形態が商標法の保護要件を満たし、商標登録できた場合、同様に、類似品を排除するための権利行使が可能です。具体的には、他人による類似品の無断製造・販売等の侵害行為について、侵害行為の差し止め、損賠賠償等の請求が可能であることに加え、行政罰(差し止め命令、過料、侵害品の没収・廃棄等)、刑事罰(懲役、拘留、罰金等)が適用される可能性があります。


4.     結語


 以上、商品形態は不正競争防止法、商標法による保護の要件は共通している部分が多いですが、要件の充足性の審査について判断基準が異なる部分があり、片方による保護が受けられない場合、必ずしてももう一方による保護も受けられないとは限りません。また、今回は、商品形態の出所識別機能に着目して、不正競争防止法、商標法による保護のみ紹介しましたが、これ以外に、著作権法や専利法による保護も考えられます。従って、商品形態の保護を検討する場合、一つの法令に制限されず、その特徴により、いずれの知財関連法令で保護できるかを様々な視点から検討しほうが望ましいと思料します。


[1] 中国不正競争防止法の保護を受けられる商品装飾について、2017年の不正競争防止法の改正時、従来の「著名商品の特有な包装・装飾」から「一定の影響力を有する商品包装飾」に条文内容が変更されましたが、当該変更により本質的な差異が生じていないと一般的には考えられているため、本稿では、同法改正前の事例も紹介します。 
[2] 最高人民法院による「中華人民共和国不正競争防止法」の適用における若干問題に関する解釈4条、5条、7条 
[3] 商標法10条1項:次に掲げる標章は、商標として使用してはならない。 
(1)中華人民共和国の国名、国旗、国章、国歌、軍旗、軍章、軍歌、勲章等と同一又は類似するもの及び中央国家機関の名称、標識、所在地の特定地名又は標章性を有する建築物の名称若しくは図形と同一のもの。 
(2)外国の国名、国旗、国章、軍旗等と同一又は類似するもの。ただし、当該国政府の許諾を得ている場合は、この限りでない。 
(3)各国政府よりなる国際組織の名称、旗、徽章等と同一又は類似するもの。ただし、同組織の許諾を得ている場合、又は公衆に誤認を生じさせない場合は、この限りでない。 
(4)実施管理し保証することを表す政府の標章又は検査印と同一又は類似するもの。ただし、その権利の授権を得ている場合は、この限りでない。 
[4] 最高人民法院による「中華人民共和国不正競争防止法」の適用における若干問題に関する解釈5条1項(3)号 
[5] 最高人民法院(2010)民提字第16号事件判決要旨  
[6] https://cartier.tmall.com
[7] https://euro.tmall.hk
[8] カルティエの中国語表記 
[9]商標法4条、10~12条、13条2項・3項、15条、16条1項、19条3項、30~32条、44条1項。商標審査審理指南下編6章 
[10]商標法10条: 
次に掲げる標章は、商標として使用してはならない。 
(1)中華人民共和国の国名、国旗、国章、国歌、軍旗、軍章、軍歌、勲章等と同一又は類似するもの及び中央国家機関の名称、標識、所在地の特定地名又は標章性を有する建築物の名称若しくは図形と同一のもの。 
(2)外国の国名、国旗、国章、軍旗等と同一又は類似するもの。ただし、当該国政府の許諾を得ている場合は、この限りでない。 
(3)各国政府よりなる国際組織の名称、旗、徽章等と同一又は類似するもの。ただし、同組織の許諾を得ている場合、又は公衆に誤認を生じさせない場合は、この限りでない。 
(4)実施管理し保証することを表す政府の標章又は検査印と同一又は類似するもの。ただし、その権利の授権を得ている場合は、この限りでない。 
(5)「赤十字」、「赤新月」の名称、標章と同一又は類似するもの。 
(6)民族差別扱いの性質を帯びたもの 
(7)欺瞞性を帯び、公衆に商品の品質等の特徴又は産地について誤認を生じさせやすいもの。 
(8)社会主義の道徳、風習を害し、又はその他の悪影響を及ぼすもの。 
県級以上の行政区画の地名又は公衆に知られている外国地名は、商標とすることができない。ただし、その地名が別の意味を持つ場合、又は団体商標、証明商標の一部である場合は、この限りでない。地名を使用して既に登録された商標は、引き続き有効とする。 
[11]http://sbj.cnipa.gov.cn/ 
[12]関連事件番号:(2013)滬二中民五(知)初字第172号、(2020)浙0782民初16973号 
[13]関連事件番号:(2020)京行終4528号


著者情報

中国弁護士

周 婷/Zhou Ting


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