コラム

中国におけるイノベーションの動向 ~「BATIS」の台頭・自動運転市場に事例に分析~

 中国政府は2015年に「中国製造2025」という国家計画を打ち出し、製造分野における更なるイノベーションを通じて、世界の製造業を牽引することを目標としている。その後も、「ロボット産業発展計画」や「次世代AI発展計画」など、次々と同目標に関連する政府計画が発表されている。これらの計画を実現するために、民間企業では研究開発を強化し、政府では資金や規制面から支援を行い、官民一体の体制を作り、そんな流れの中で、中国政府は、巨大企業集団「BATIS」(Baidu、Alibaba、Tencent、iFLYTEK、SenseTime)を中国イノベーションのけん引役として指名した。


・Baidu:自動運転分野

・Alibaba:スマートシティ分野

・Tencent:医療画像認識分野

・ iFLYTEK:音声認識分野

・SenseTime:顔認識分野


「BATIS」担当分野の概況


自動運転車の「脳」にあたる自動運転システムの開発にフォーカス

・2017年4月アポロ計画を正式発表、2018年7月Apollo3.0無料リリース

・10億元の投資ファンドを組成、年間で100の自動運転PJに投資予定

・ OEMや部品メーカーなど133社を巻き込み


スマートシティ分野においてより汎用的なAIプラットフォームとしてのET Brain

・2016年10月に「ET City Brain」計画を発表

・Alibaba Cloudの基盤を利用したビッグデータのリアルタイム分析

・さまざまな予測、意思決定支援、画像や動画などの自動検索が可能に

・製造業向け「ET Industrial Brain」、環境を対象にした「ET Environment Brain」等業種別展開


ヘルスケアをめぐり、診療補助オープンプラットフォーム及び機能の開発に

・2017年11月、計画開始と発表

 ・2018年6月、オープンPF、診断補助機能「騰訊覓影」公開

・中国全土100ヵ所以上の病院と提携し、同PFの実用化を目指している

・情報の共有化を図り、国家機構と戦略提携に、診療用の健康カードの電子化を促進


音声認識分野において「人間」でなく「秀才」に近付いた音声認識技術

・1999年創業、2000年音声認識技術の開発を開始

・スマート企業で世界6位、中国勢で最高位

・中国語の音声認識の正答率は95%に達成

・自動車製造、医療、金融、教育の各分野で12億台のデバイスに搭載


顔認識分野において世界一の企業価値(30億ドル)を誇る中国ベンチャー

・2014年10月に設立、顔認識技術の研究と開発を手がけるベンチャー企業

・本田技術研究所と提携、レベル4の自動運転技術を共同開発予定

・中国公安部門での画像・顔認識技術の使用増加によって急成長

・3年連続で400%の前年比成長率を維持


中国自動運転業界の概況


 中国汽車工程学会(SAE- China)が発表した「無人運転技術路線図」により、中国自動運転技術は、10年にわたって「運転補助(DA)」「部分的自動運転(PA)」「条件付き自動運転(CA)」「高度・完全自動運転(HA・FA)」4つの段階に分かれ、2025年に「高度・完全自動運転」を実現することが明らかになった。2015年以降、中国の自動運転産業は、急速な発展の時期に入り、政策と法規の組み合わせ、技術の応用レベルを向上させ、自動運転産業が市場開発段階から、商業化の応用段階に徐々に移行していくと見られる。実際のところ、2018年からは、「長安」、「一汽」、「上汽」、「吉利」などの中国企業は、レベル2(PA)の部分的自動運転技術が徐々に商業化され、一部の技術は量産車種に搭載されて市場に投入済み、よりハイレベルの条件付き自動運転技術は、2020 - 2021年に商業化される見込みである。



<「中国智能網聯汽車産業創新連盟」の存在>


 「中国智能網聯汽車産業創新連盟」(以下はCAICV)は、2016年、中国工業信息化部の指導の元に設立され、①AI・ICV自動車団体標準・規範の制定、②技術標準基礎研究の強化、③国家業界標準の制定のサポートを重点業務として揚げており、メンバーには中国汽車工程学会、中国汽車工業協会などのような政府系研究機構または工業会、中国第一汽車、長安汽車などのような車メーカのほかに、清華大学、同済大学のような大学、高徳地図のような地図メーカーもある。技術分野からみれば、CAICVは車載感知技術、智能策定及び制御、V2X通信など、センサや通信に関する技術に特化したWGを組織として含んでいるため、これらの技術分野における標準策定への関与の可能性があると思われる。


<自動運転関連特許の出願&道路試験ナンバープレートの発行状況>


 中国専利保護協会より、2018年11月12日に発表した「中国自動運転関連特許の出願者&出願件数」からみれば、百度は計155件を出願し、最も自動運転関連特許を多く出願していた企業である(下記グラフを参照)。


            中国自動運転関連特許の出願者&出願件数

          

 また、弊社にて公開資料を整理したところ、2018年12月迄、中国で自動運転用の道路試験ナンバープレートの各社の取得状況は以下の通り、百度はすでに30枚を取得し、最も多いナンバープレートを保有する企業である(下記グラフを参照)。


中国道路試験ナンバープレートの発行状況


<Baiduの自動運転事業「アポロ」計画>


 Baidu自動運転事業中国の運営主体は「百度自動運転事業グループ(IDG)」であり、主に自動運転事業部(L4)、知能運転事業部(L3)、車聯網(IOV)ビジネス事業部より構成される。Baiduは2013年に、「百度無人運転自動車」研究開発計画を行い、当時、百度研究院が主導して研究開発を行ったが、2017年4月「Apollo計画」を発表した。



 Baidu時度運転事業グループは北京に拠点を置き、主にレベル3、レベル4の自動運転技術の開発を担当しており、12チームによって構成され、現在は500名以上の研究開発員が在籍する。2017年、シリコンバレーにて研究開発センターを設立し、技術の開発のみならず、道路試験も行っており、研究開発員は90名程度である。また、アポロ計画の一部として、「Apolong」という量産プロジェクトも存在し、すでに無人マイクロ電動バス「shuttle」の小規模の量産化を実現し、すでに雄安、広州、恵州、蘇州、厦門などに特定ルートで10,000キロの走行試験を完了した(下記図を参照)。


無人マイクロ電動バス(shuttle)



外国企業にとっての留意点


 こうしたイノベーションの動きにより、中国独自の標準必須特許リスクがあると思われ、例えば、2017年には、日系企業(ソニーモバイル社)が、WAPIの標準必須特許権の侵害を理由に、900万元超の賠償金の支払いを命じる判決が下されたことは記憶に新しい。次に、中国企業全体の技術力・特許力向上と、外国企業への対抗意識を背景に、中国企業同士の特許の共同運用を目的とする「特許連盟」が、中央政府の支援を受けて、各業界で相次ぎ設立されている動きもある。

 これら状況を踏まえると、外国企業においては、例えば、中国の自動運転市場に進出する際に、市場調査や競合先調査をしっかりと行い、自社の位置づけ、競合他社の弱み・強み、市場消費者のニーズ、注力すべき技術分野などを把握した上で、進出や拡大戦略を立てて、実行していくことが重要となるだろう。


著者情報

IP FORWARD

模倣対策部/ビジネスサポート部 部長

陸 洋森

陸 洋森/Lu Yangsen

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