コラム

中国貿易における基礎税務知識


はじめに


 世界第二位の経済大国となった中国。今や生産拠点のみならず、巨大市場としてもその存在感を増している。

 その一方で、中国との通関手続・貿易取引においては、特に中国の税制が分からず、困っている企業様が多く存在している。本稿は一般貿易に関わる中国の税制上の留意点について、分かり易く解説する。


中国は発票大国


 日本とは違って、中国において、一部の小売や特殊なものを除いた、ほとんどの取引において、発票に関わっている。中国の発票は、一般的に国税局官製のものであり、売り手側は商品やサービスを販売し代金を回収すると同時に、買い手側に専用システムを用いて発票を発行する。従って発票を発行すれば、税務局はその取引を把握できるわけだ。一方、企業側にとっても発票は非常に重要である。その理由としては、主に以下の2つだと考えられる。
①増値税納税の証明及び、増値税控除の証拠(※1)
②企業所得税計算時の経費としての証拠


 まず、①について、中国での物の販売や役務の提供において、基本的には増値税(流通税の一種で、日本の消費税に近い存在)を納付しなければならない。増値税の納税額は、商品販売、役務提供して、かかった増値税額から、仕入れた原材料や役務等での増値税額(発票上の税額)を差し引いた(控除した)額となる。従って、発票が無ければ、その控除もできず、商品販売にかかる税額も当然全て販売側が負担しなければならない。また、税務局の観点から、本来なら原材料、仕掛品、最終商品までの流通は一つの環であるが、途中で一枚の発票が欠けると、その環が破れて、脱税の可能性が高いとも思われる。従って、中国での取引は、必ず発票の受領する必要がある。


 前述のように、発票が無ければ、控除がないため自社の税額負担が高くなる。そこで、税金を抑えるために、以前全く取引実態のない業者から、発票を購入するという手もある。しかし、近年、税務局側は、ビックデータ解析技術を導入して、発票の不正利用を厳しくチェックしており、特に発票発行しない実の取引に伴わない不正利用、例えば、増値税発票不正発行(紹介も含む)する場合には、一般的に、罰金のほかに、刑事罰も受けることがあり、厳罰を講じている。


※1 実際中国では、通常、「増値税専用発票」と「増値税普通発票」の2種類の発票が存在している。「増値税専用発票」は、通常企業が発行する発票であって、対照的に「増値税普通発票」は、一般的に税制優遇を受ける小規模企業が利用するものである。前述の増値税控除において、通常「増値税専用発票」のみ認められ、「増値税普通発票」の税額を控除できない。但し、「増値税普通発票」は控除としての機能がないものの、増値税納付の証明や、経費としての証明機能があるため、取得する必要がある。


 一方、②について、ビジネスを行う以上、原材料仕入れのほかに、様々な経費も発生する。基本、経費は、証拠となる発票が不可欠であり、発票が無ければ、不当な支出や、脱税、利益移転等が疑われ認められないこともあるため、留意する必要がある。

中国への輸出時の増値税発票

 前述の通り、一般的な中国国内取引には、売り手側が代金を受け取るとともに、発票を発行しなければならないが、国際貿易(中国に輸出の場合)はどうなるか。売り手側は日本国内の企業であり、中国の発票の発行ができないため、一般的には、インボイスを発行して、輸入側(中国側)は、商品を通関する際に、中国税関にて関税のほかに、増値税分も納付する。納税後は税関から納税証明が発行され、それは、増値税専用発票と同類の証拠として認識される(増値税控除の証拠にもなる)。従って、日本本社から、中国子会社に部品輸出する際にも、税関での納税及び納税証明の取扱も留意する必要があります。


契約における税務上の留意点


 前述のように、中国での物の販売や、役務の提供において、増値税を納付する必要がある。しかし、物の販売や、提供する役務の内容によって、税率が異なる。特にグローバルビジネスを行う際、一つの取引に、複数の物、サービスを含まれている場合がある。例えば、設備生産業者は、設備を販売すると同時に、設置、修理のサービスも付随する。契約上では、「物を販売し、付随するコンサルティングサービスを提供して、代金は金〇〇円」と締結されることが少なくない。その場合は、通常、税務局(輸入の場合は、税関)は、一つの取引として認識し、高い税率を適用する。それを解消するには、一つの方法としては、商品売買と役務提供の2通契約するか、契約内容を分けて明記することが有効だと考えられる。中国では、商品の売買、輸入について、通常13%の増値税が課せられるのに対して、役務の提供は6%(役務の内容によって、9%になる場合もある)になる。取引内容ははっきり区別することで、企業側の負担も軽減できる。


 総じて、中国は、日本と異なる独特の税制制度があり、物の販売やサービスの提供とは別に、本稿で触れた内容以外にも、税務上様々な留意しなければいけない点は数多く存在している。これから、中国ビジネスを開始する、または見直しするにあたり、自社のビジネスモデルを構築する際に、中国税務に関する基礎情報を把握することが十分必要だと考えられる。


 本稿で触れた内容はもちろん、それ以外の法人設立や、税務・会計等において、お困りの場合は、ぜひ、一度ご相談ください。


著者情報

IP FORWARD 

コンサルタント

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